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経営者:編集長インタビュー 芦田 信 JCRファーマ会長兼社長 2016年4月12日特大号

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◇芦田 信 JCRファーマ会長兼社長

◇「難病治療薬の開発に存在意義がある」

 

 JCRファーマは、遺伝子組み換えや細胞培養といった最先端の領域で、医薬品の開発から製造、販売まで手がける。

 

── 強みは何ですか。

芦田 1975年に創業し、人間の尿からたんぱく質を精製して薬を作りました。酵素やホルモンといったたんぱく質の精製技術が強みです。

 その後、主流になった遺伝子工学で開発するうえで、私は研究部門に一つ要求しました。通常は培養の際に牛の血清を使いますが、クロイツフェルト・ヤコブ病などのリスクがあるため、動物由来の成分を使わずに開発してほしい、と。研究部門は見事にやってくれました。第1号が2010年に発売した、透析患者の腎性貧血を治療するための「エポエチンアルファBS注JCR」です。

 この製品はバイオシミラー(バイオ後続品)のため、当社は世間からバイオシミラーの会社として見られることが多いのですが、これは遺伝子工学において動物由来の成分を使わず開発できるか、一つの実験でした。現在、希少・難治性疾患を対象に新薬を開発しています。

── 難病を対象とする理由は。

芦田 抗がん剤やリウマチ薬など大きな市場で、多大な開発費を投じる大企業と競合して勝てるのか。患者さんの少ない疾患を目的とした方が当社の存在意義があると考えています。難病の多くは子どもの頃に発症が分かり、寿命が限られます。

── 主な対象は何ですか。

芦田 先天代謝異常であるライソゾーム病です。これは体内で不要な物質を分解する酵素を作ることができないため糖質や脂質が蓄積し、さまざまな症状を引き起こす病気です。

 酵素を補充する既存の薬では身体の症状は改善しますが、脳には物質をはねのける血液脳関門(BBB)があるために酵素が届きにくく、脳に糖老廃物が蓄積して知能が低下

し、死に至るケースが多いのです。

 我々はどうすれば酵素を脳に届けられるかと考えました。薬が脳の関門を通りやすくするために開発した技術が「J -Brain Cargo」です。この技術を用い、ライソゾーム病の二十数種類のなかで八つを対象に研究を進めています。今後はライセンス供与や共同開発によって、グローバル化を考えています。

 

◇利益を開発費に

 

── 現在の売り上げの中心は。

芦田 14年度の売上高168億円のうち、メインは先天異常による低身長の子どもに投与する遺伝子組み換え成長ホルモン剤「グロウジェクト」と「エポエチンアルファBS注JCR」です。グロウジェクトは外資系5社と競合し、現在3位です。

── 再生医療の早期実用化を図る改正法のもとで、昨年9月に初承認された「テムセルHS注」とは。

芦田 この薬は急性白血病の骨髄移植の際に起きる合併症を抑える薬です。1人の健康人から採取した骨髄液の間葉系幹細胞を培養したものです。2月に国内で販売を始めました。他人の細胞を用いた他家由来細胞製品の販売は世界で初めてです。

 13年前に米オサイリス社で社長を務めていた知人から話を聞いたことがきっかけで、同社から技術導入しました。細胞を培養したものが医薬品として扱われるかどうかもまだ分からない時代に、試行錯誤しながら作り、臨床試験を進めました。

── 再生医療法は追い風ですか。

芦田 今回の法改正では、臨床試験の途中で条件付き承認を得て、販売しながら残りの臨床試験を進めることが可能になりました。ですが、当社のテムセルHS注は臨床試験を全て終えて正式な承認を得ています。

── 業績への貢献は。

芦田 骨髄移植は年間3500人が受けますが、合併症を発症した人のうち、テムセルHS注の対象は特に重篤な300人と限られます。

 薬価(保険償還の際の基準)は1回投与分約86万円で1治療につき8?12回投与しますが、マイナス150度下での輸送費などコストを考えると、12年間の臨床開発費は回収できません。薬価の再交渉をする選択肢もありましたが、待っている患者さんがいます。当社は利益を開発費に充てていますから、薬価を受け入れました。

── 資金を集めて開発し、製造は他社に委託するという一般的な製薬ベンチャーとは違うのですね。

芦田 当社は創業以来、インターフェロンの開発中止で減損を出した2年を除いて黒字です。利益の範囲内で研究をしてきました。コストが大きい臨床試験では他社と提携し、得意分野に注力しています。

 当社はものづくりを大切にしています。当社の製造技術で効率的に薬を生産し、できるだけ安く世の中の人に届けるよう努力しています。遺伝子工学や細胞の薬は、開発した作業手順書を工場にもっていくだけでは作れません。プロセスのすり合わせが必要です。

── 今後の成長のカギは。

芦田 研究部門にはテーマを与え、自由に時間を使って仕事をしてもらっています。若い人がいい仕事をしています。営業部門には外資系製薬から移ってくる人が多いです。給料は当初減りますが、同僚は競争相手という外資系と違い、チームとしてがんばる雰囲気に引かれるようです。全社的に離職する人はほとんどおらず、出産した女性社員も復職します。そういう風潮をいかに保っていけるかが必要だと思います。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 32歳で創業し、韓国に行って寒い中、集めた尿をかぶりながら作業していました。その頃から精神状態は変わっていませんね。

Q 「私を変えた本」は

A 宮城谷昌光、井上靖、司馬遼太郎など歴史小説を読みます。自分の経験からもそうですが、「物事は思い通りには運ばない」ということを感じます。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフですね。もっとスコアを伸ばしたいので食事に気をつけたり、家で筋トレをしたりします。

 

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■人物略歴

 ◇あしだ しん

 東京都出身。愛知県立岡崎高校卒業、1968年甲南大学理学部卒業。同年大五栄養化学(現・日本製薬)入社。75年に退社し、日本ケミカルリサーチ(現・JCRファーマ)設立、代表取締役社長に就任。73歳。


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