◇ドローン使う「オバマの戦争
◇民間人犠牲者は最大116人に
(会川晴之・毎日新聞北米総局長)
米政府は7月1日、この7年間に実施した対テロ戦争で犠牲となった民間人の死者が最大116人に達すると発表した。主に、米中央情報局(CIA)が作戦を指揮した無人機(ドローン)による攻撃で、誤爆されたり、巻き添えになった被害者で、中には子供もいる。この数字には、過激派組織「イスラム国」(IS)との闘いを続けるイラク、シリアや、アフガニスタンの数字は含まれていないため、民間被害者の実数は数倍に達する可能性がある。
米国家情報局によると、オバマ大統領が就任した2009年1月20日から15年12月末までの間に、米国はパキスタンなどの非戦闘地域で473回の対テロ攻撃を実施した。攻撃が実施された地域などは公表していないが、アフガンに隣接するパキスタン北西部や、中東のイエメン、アフリカのソマリア、リビアなどとみられ、こうした攻撃で2372~2581人(推計)のテロリストを殺害した。だがその一方で、64~116人(推計)の民間人も死亡した。
08年の大統領選で、イラクとアフガンからの早期撤退を公約に掲げたオバマ大統領は、就任直後から対テロ戦争の切り札としてドローンを使うことを決断した。ブッシュ前大統領時代のドローン攻撃はわずか49回だが、非戦闘地域だけでもこの7年間で500回近くに達した。背景には、01年から始めたアフガン戦争、03年からのイラク戦争で米兵の死者が多数にのぼり、国民の批判が高まったことがある。戦闘機などによる爆撃に比べて安価で済むこともドローンによる作戦を後押しした。だが、誤爆という予想外の結果を生み出してしまう。
ドローンは、米国本土の基地内に置かれた「コンテナハウス」と呼ばれるオペレーション・ルームで、担当者が人工衛星を使いながら運用している。このシステムでは、戦闘経験で蓄積してきた「怪しい動きをする人物」を察知して、担当者が即座に攻撃する仕組みになっている。だが、「怪しい」と判断するプログラムが完璧ではないため、民間人を戦闘員と間違えて攻撃してしまうケースや、戦闘員の周辺にたまたま居合わせた民間人が巻き添えに遭うケースが続出している。
◇少女の心に深い傷
一例を挙げよう。12年10月、パキスタン北西部の自宅近くでナビラ・レフマンさん(12)一家はドローンによる誤爆を受けた。ナビラさんの目の前で農作業中だった祖母(当時67歳)が亡くなり、ナビラさんら9人も爆弾の破片で負傷した。なぜナビラさん一家が狙われたのか、真相は明らかになっていない。ドローン攻撃の非人道性を訴えたいと、教諭である父と弁護士などと相談して米国を訪問し、米下院で「ドローンに攻撃された時は怖かった」と証言した。出席した議員はわずか5人だった。また、昨年11月には来日、都内で開かれたシンポジウムに参加したほか、被爆地・広島を訪ね「戦争のない世界の実現のためには、対話が最も必要」と訴えた。
ドローンの活動を監視する非政府組織(NGO)などによると、民間人の死者は200~900人に達している。オバマ氏はこうした批判を念頭に「可能な限りの情報を開示」するよう指示、それが今回の発表につながった。ただ、大統領の狙いは、テロリストの死者が約2500人にも及ぶなどドローンを使った対テロ戦の成果は大きいと強調することにもあるようだ。
オバマ氏は6日、アフガン駐留米軍を17年も8400人規模で維持すると発表した。「オバマの戦争」は、来年1月に就任する新大統領に引き継がれることになる。