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【ヘリコプターマネーの正体】よく分かる「ヘリマネ」議論の歴史 2016年8月2日号

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◇教訓は恒常化による副作用

 

上川孝夫

(横浜国立大学名誉教授)

 

 主要国において国債残高が積み上がり、非伝統的金融政策も手詰まりとなる中で、最近、「最後の戦略」とも言われるヘリコプターマネーを巡る議論が復活している。

 ヘリコプターマネーという造語は、マネタリストの統帥である米国の経済学者、ミルトン・フリードマン=写真=の1969年の著書『最適貨幣量と他の論文集』所収の論文「最適通貨量」に出てくる話に由来すると言われる。当時はドル危機が激化し、世界的にインフレーションが高進していた時期。フリードマンは、貨幣量と物価水準の関係を説明するために、ヘリコプターからドル紙幣をばらまくという比喩を持ち出している。インフレは貨幣的現象であり、中央銀行の貨幣政策をインフレ抑制のための有効な手段と見なしていた。
 その後、デフレーションとの戦いに、この話を持ち出したのは、米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のベン・バーナンキ氏である。理事に就任した2002年の講演の中で、デフレを食い止める一つの手段として、中央銀行が公開市場で民間保有の国債を買い取るとともに、政府が広範な減税を実施することを提案し、これはフリードマンのヘリコプターマネーに本質的に等しい、と述べた。
 政府と中央銀行を一体として見ると、国債は政府の債務であると同時に、中央銀行が資産として保有するため、両者は相殺される。つまり、「中央銀行の負債(ベースマネー)を財源とした減税」ということになる。ここでベースマネーとは準備預金(民間銀行が中央銀行に保有する預金)と現金の合計額である。バーナンキ氏はプリンストン大学教授などを歴任した大恐慌研究者であり、大恐慌期のデフレ問題に強い関心を持っていた。03年に日本で講演した際も類似の提案をしている。また、同じ03年にコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授が来日した際、政府紙幣の発行を推奨した。

 

◇ターナーにより再燃

 

 現在、デフレは欧州・ユーロ圏へと広がり、日本もデフレ再来の懸念を払拭(ふっしょく)できないでいる。こうした中で、ヘリコプターマネーを巡る議論の再燃で注目を浴びているのは、英金融サービス機構(FSA)の元長官、アデア・ターナー氏である。15年の論文や著書『債務と悪魔のはざまで』の中で、いくつかの方法を説明しているが、その一つは、政府が国債を発行して減税や公共支出の財源とする一方、中央銀行が既発国債を買い取り、これを無利子の永久債に転換する、あるいは償還期限が来たら、継続して国債の借り換えを行うという提案である。……

 

(『週刊エコノミスト』2016年8月2日号<7月25日発売>28~29ページより転載)


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