◇世銀が途上国防災を支援
◇災害考慮の開発を後押し
(安井真紀・国際協力銀行ワシントン首席駐在員)
この夏は、イタリア中部の大地震、米国南部ルイジアナ州の洪水、日本や中国の台風被害など、世界各地が自然災害に見舞われた。国連の「国際災害データベース」によれば、1990年から2015年に発生した一定規模以上の干ばつ、地震・津波、洪水、地滑り、暴風雨、火山噴火などのうち、死者・行方不明者の数が最も多いのは地震・津波で、犠牲者は80万人以上に上る。発生件数、家屋の損失、食糧・医療等の緊急支援が必要な人の数が最も多いのは洪水であり、被災者は累計で約28億人にもなる。スイスの再保険会社は8月、16年上半期の災害による経済損失は世界全体で約710億ドル(昨年同期比38%増)と発表した。熊本の震災やカナダの山火事などが損失額を押し上げた。
自然災害による人的被害や経済損失が大きいと理解していても、特に開発途上国では、いつ起こるかわからない災害のために予算を充てるのは容易ではない。途上国の開発プロジェクトの中には、災害をあまり考慮していない計画や設計もある。大規模な災害は大きく報道され、多額の支援金や物資が集まるという面もあり、災害対策は後手にまわりやすい。
途上国の発展を支援する国際機関は今、既存の開発計画や貧困削減対策に防災関連の投資を盛り込むことを、技術・資金の両面で支援している。
◇情報共有が課題
世界銀行は、06年に防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)を設立した。GFDRRのメンバー国の日本は14年、東日本大震災の経験を踏まえて、「日本・世界銀行防災共同プログラム」を開始した。防災専門官が集う「世界銀行東京防災ハブ」(東京都千代田区)を設立。日本の防災の知見や技術を活用して、途上国の開発プロジェクトで災害リスクを十分に考慮して、計画、ファイナンス、事業実施に当たる「防災の主流化」を後押ししている。
具体的なプロセスは、(1)対象国・地域の潜在的災害リスクの特定(2)リスク軽減方法の検討(3)国・地域レベルの警報システムの構築や危機対応計画の策定などだ。特に(1)の災害リスクの特定では、対象国・地域の気象、地質、過去の災害などの情報を集める必要がある。ところが途上国には必要な情報がない、あっても精度が低い、各機関に散在し集約されていない、ことが多い。
ただ、別の目的で集められた情報が、実は防災に役立つことがある。世界銀行は、個別プロジェクトを管轄する部署が保有する情報を、防災のために共有できるよう、各国政府機関などの協力を得て、オープンなデータベースの構築を始めている。
自然災害は、気候変動はもちろんのこと、急速な都市化とも無縁ではない。14年に発表された国連の「世界の都市化予測リポート」によれば、1950年に世界の人口の3割だった都市部の人口は、2014年には54%を占め、50年には66%に上るという。人が都市部に押し寄せて、居住に適さない場所にも住むようになると、災害の影響が拡大する可能性がある。
災害リスク管理、気候変動対策、都市化対応は、互いに連動するグローバルな課題だ。各分野の情報収集・共有が進めば、多くの人が関心を持ち、立場や専門分野を超えてアイデアや解決策も集まるだろう。共通のプラットフォームを構築し、プロセスの標準化が進めば、個別の対策により多くの人材・資金を投入できるだろう。災害の多い日本の経験や知識も、世界と共有することで、「持続可能な防災・減災」につながることを願う。