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第40回 福島後の未来をつくる:本間龍 著述家=2016年10月4日号

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 ◇ほんま・りゅう

 1962年生まれ。博報堂で約18年間営業を担当。2006年に退職後、在職中の損金補てんにまつわる詐欺容疑で逮捕・起訴。出所後に服役経験をつづった書籍を上梓。著書に『電通と原発報道』(亜紀書房)、『原発プロパガンダ』(岩波新書)など。

 ◇メディアを支配してきた原発プロパガンダからの脱却

 

 私は2006年に退職するまで18年、大手広告代理店の博報堂で営業職を務めてきた。スポンサー企業と接して業務を受注し、集金の責任まで負う部門だ。出身母体である広告業界は、原発の「安全神話」を国民に刷り込み、日本の原発推進に大きな役割を果たしてきた。現場のやり取りを経験した身にとって、メディアと原発を推進する電力会社や関連企業・団体との癒着の構造は手に取るように理解できた。

 しかし、事故から数年が経過しても、メディアや広告業界が過去を全く反省しない実態を目の当たりにした。さらに電力会社はいま安倍晋三内閣の政策にのっとって再稼働への準備を着々と進めている。東京電力福島第1原子力発電所の事故により、いまなお故郷に帰れない人は10万人に及ぶ。原発はいったん事故が起これば数十万、数百万単位の人生を台無しにしてしまう。その発電システムを存続させていく合理的な理由が果たしてどこにあるのか。


 原発は1950年代から国策として国が主導してきた。政官学と経済界が展開した原発推進PR活動は、実施された期間と費やされた巨額の予算から考えて、世界でも類がないほどの国民扇動プロパガンダだった。私は広告業界にいた者として、その仕組みを告発しようと考えた。

 数字でそれを示そう。電力9社(原発がない沖縄電力は除く)が1970年代から3・11までの40年間に使った広告費は、実に2兆4000億円(朝日新聞社調べ)。これは国内で年間500億円以上の広告費を使うトヨタでさえ、使用するのに50年近くかかる莫大(ばくだい)な金額である。

 さらに経済産業省などの政府広報予算なども加えれば、投下された金額はその数倍に膨れ上がる。

 この巨大な広告費の目的の一つは、「原発は安全でクリーンなエネルギー」という国民に対する洗脳、そして広告を掲載するメディアに暗黙の圧力を加えることにあった。

 定期的に年間数千万、数億円で広告枠を買ってくれる大スポンサーは非常にありがたい存在だ。特にバブル崩壊以降の景気低迷で広告収入の減少に苦労したメディア各社は、電力会社に盾突いて貴重な収入源を失うことを極端に恐れた。自然と広告の審査は甘くなり、電力会社の広告はノーチェックで新聞・雑誌上にあふれるようになった。

 

 ◇地方紙の掲載段数に注目

 

 日本における本格的な原子力発電の始まりは1970年の敦賀原発(日本原子力発電)、美浜原発(関西電力)、71年の福島第1原発(東電)の運転開始になる。すでに68年には30段(新聞2面分)の広告が福井新聞に掲載され、これが事実上の原発広告の始まりと思われる。

 この頃の広告媒体といえば、テレビ放送はまだ黎明(れいめい)期で、新聞が圧倒的に強かった。特に地方では県紙と呼ばれる地域密着の新聞があり、世帯普及率が50%を超えることもあった。私はこの地方紙に注目した。

 地方紙への広告掲載段数の推移を見れば、傾向がはっきり見えるのではないか、と考えたのだ。国会図書館で丹念に過去の地方紙を調べればできないことではなかった。そこで私は約1年をかけて調べ上げた。

 新聞1面の全面広告は15段広告となる。つまり150段という数字は1面全面の広告が掲載された日が、年間に10日あったと判断できる。

 この調査で明確になったのが原発広告の二面性であった。つまり、平時の電力会社の広告は、常に原発政策はバラ色です、と報道してもらうための「賄賂」であり、事故など有事の際は、広告引き上げをちらつかせメディアに報道自粛を迫る「恫喝(どうかつ)」手段である。実際に掲載段数の推移は、稼働前や事故時に急増する傾向が明確に見えた。

 表1は90~99年の原発立地県の地方紙への広告掲載段数の推移だ。これを見ると、たとえば茨城県の東海村で起きたJCO臨界事故があった99年の地方紙の広告掲載段数は1541と、他の年を圧倒している。

 柏崎刈羽原発のある新潟県の新潟日報には96年に719段もの広告が掲載されている。実はこの年、東北電力の巻原発の建設是非を問い、自治体による全国初の住民投票が巻町(現新潟市西蒲区)で実施されている。住民投票は町を二分する争いとなったが、住民は建設を拒否した。この裏で、これだけの広告が掲載されていたのである。

 この「原発プロパガンダ」は福島原発事故後、その表現に大きな変化が生じる。事故以前の広告には、「原発は安全」「クリーンなエネルギー」「日本のエネルギーの3分の1を担っている」。この3本柱がほぼ必ず盛り込まれていた。しかし、事故後にこのスローガンを使うことはできなくなった。そこで広告代理店やPR会社を総動員して新しいスローガンを考えた。それが「原発は日本のベースロード(安定供給)電源」「火力発電は二酸化炭素を排出するので環境に良くない」「原発停止による割高な原油輸入は国富の流出になる」。しかし、その一つ、原油高による国富流出は昨年からの原油市況低迷で使えなくなった。

 すると今度は「エネルギーのベストミックス」という言葉を使いだす。結局、原発の広告は、本質的に推進する意義がないからこそ、その場しのぎのロジックとなる。最近は文化人などを巧妙に登場させ、「震災からの復興」「風評被害の撲滅」という新たな錦の御旗(みはた)を掲げ、原発プロパガンダがひそかに復活しつつある。

 こうした一方的なプロパガンダに翻弄(ほんろう)されないためには市民にどんな意識が必要なのか。重要なのは、日々目の前に流れるニュースを軽々に信用せず、自分の頭で考えることだ。その意識があれば多くのニュースの「目的」を見破ることができる。そのためにもっとも手軽な方法は、インターネットを活用することだ。

 私の情報収集で大きな力になっているのもツイッターとフェイスブックである。それらを通じて地方在住の方から、「今日、地元新聞にこんな原発広告や記事が掲載」という情報をいただくことが多く、組織に属さない私には大きな力になっている。

 二つ目に重要なのは、それらツイッターなどのネットワークを活用して、独立系メディアの情報に耳を傾け、支えることだ。その多くは企業からの広告をほとんど取らないがゆえに総じて経営規模は小さく、大メディアと比較すれば発信力が小さい。しかし、広告主からの干渉を受けないからこそ、真実を伝える可能性が高く、貴重なのだ。表2に、その中でも、比較的規模が大きく発信力が高い団体を挙げた。

 原子力資料情報室など、政府や企業からの援助を受けずに活動しているNGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)なども、独自の放射線量調査などを継続的に行っている。こうした団体の会員になるなど少しでも支援することが大事なのだ。バイアスがかかっていない情報を選(よ)るには、それなりのコストや努力が必要だということを私たちは認識しなければならない。

 近い将来、私自身も過去の原発の記事や広告を徹底的に収集、公表し、さらに最新状況を分析するNPO組織を立ち上げたいと考えている。(了)


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