丸山 仁見(編集部)
「私の感覚では、物価は下がっている」──。1990年代前半、通商産業省(現経済産業省)から大手スーパーの西友専務に転身した坂本春生(はるみ)氏は、決算発表のたびに記者から聞かれる物価動向に違和感を覚えていた。総務庁(現総務省)が公表する消費者物価指数(CPI)と、流通の現場で感じとる肌感覚とはズレているというのだ。
◇前年度比マイナス6%
「それでは、独自に物価指数を作ってみたら?」
記者のこんな提案に同席していた当時の藤関勝宏社長は「いいね」と同調。その場で、坂本氏が西友独自の物価指数作りの責任者に決まった。
総務省の発表するCPIの元になるのは小売物価統計。この調査では、一定の店舗で原則として一定の商品について価格を調査することで、統計の継続性を担保する。しかし、バブル崩壊後の90年代前半に始まった大規模量販店による低価格プライベートブランド(PB)商品の開発や円高輸入品の増大による「価格破壊」が急速に進む過程では、消費者の現実の物価感覚とCPIは乖離(かいり)していると、坂本氏は考えた。
そこで、西友の全店舗から集まってくるPOS(販売時点情報管理)データを元に、独自の「西友物価指数」を作成する作業にとりかかった。……