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トランプ氏とFRBの衝突不可避 スタグフレーションも現実味

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岩田太郎(在米ジャーナリスト)

 

「世界中の中央銀行が夢でしか実現できなかったインフレ予想の高まりを、政治や経済の素人であるドナルド・トランプ氏は、減税や大規模インフラ投資を公約するだけで、大統領就任前に達成した」(11月15日付ブルームバーグ通信のポッドキャスト)──。

 

トランプ氏当選後の米長期金利上昇などを受け、次期政権が金融政策に及ぼす絶大な影響力や、トランプ氏が米連邦準備制度理事会(FRB)と協力するのか、対立するのか、米論壇では活発な議論が繰り広げられている。

 

利上げに対し、一貫して慎重な姿勢を示してきたダン・タルーロFRB理事が11月15日、「経済の過熱を防ぐため、いつ利上げをすればよいかという議論が以前より議題になりやすくなっている」と立場を変え、自ら利上げの可能性を示唆。市場は驚きに包まれた。

 

ブルームバーグ通信の11月15日付分析記事は、「米ゴールドマン・サックスや英スタンダード・チャータード銀行のエコノミストは、FRBがより積極的になり、利上げの回数を増やすと予想している」と伝えた。この記事の中で、米ルネサンス・マクロ・リサーチの米国経済担当チーフエコノミスト、ニール・ダッタ氏は「トランプ氏は『民主党の選挙勝利のため利上げを遅らせている』とFRBのイエレン議長を攻撃してきた。一見あり得ないように思えるが、両氏は同盟関係に入るかもしれない」と今後の見通しを語った。

 

米外交問題評議会の金融専門家、セバスティアン・マラビー上席研究員は11月15日付『ワシントン・ポスト』紙への寄稿で、こうした楽観論を否定した。「FRBが利上げをしても、トランプ氏はその結果を気に入らないだろう。金利が上昇すればドルが強くなり、ドルに引かれてより多くの移民が米国を目指すからだ。滞在資格をもらえなければ、不法滞在でもやってくる。また、ドル高は、米国製品の価格を上昇させて輸出を冷え込ませる一方、輸入を増やす。そうなれば、トランプ氏に投票した労働者層が職を失い、仕事が海外に流出する」とその理由を説明した。

 

マラビー氏は「トランプ氏は選挙期間中に中国を通貨操作国として非難してきたが、皮肉なことに、米金利が上昇し、ドル高になることで米国の競争力はそがれ、貿易相手国は自国通貨の価値を下げる通貨操作の必要がなくなる」と指摘し、「新大統領とFRBは衝突の『お膳立て』ができている」と言明。「公約を実現できなくなり、矛盾して愚かしく見えることを嫌うトランプ氏は、利上げの必要を認めるイエレン氏を『独立しすぎだ』と攻撃することになるだろう」と予測した。

 

 ◇FRBの独立侵す新大統領

 

トランプ氏就任後の米国経済の先行きに、マラビー氏は「トランプ氏が人事権を使ってFRBにハト派を送り込み、インフレに目をつぶる金融政策をとらせれば、物価上昇期待が高まり、労働者は賃上げを要求する。企業は製品価格を上げ、経済活動が停滞するなかでインフレが襲った1970年代のスタグフレーションの再来となるだろう」と悲観的だ。

 

こうした議論の高まりから、早くも、スタグフレーションが起こることを前提に、FRBがいつ利上げを停止するかが論じられている。ゴールドマン・サックスのエコノミスト、アレック・フィリップス氏らは11月の顧客向けの分析で「2018年から19年に米国の国内総生産(GDP)は0・8%押し下げられる一方、物価上昇率は2・3%に達し、失業率は5・3%に上がる。FRBはインフレと戦うために積極的に利上げを行った後、失業を減らして景気を刺激するため、19年に利上げを停止する」としている。

(岩田太郎・在米ジャーナリスト)「論壇・論調」

掲載号:2016年12月6日号

定価:620円

発売日:2016年11月28日

 

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