土田陽介(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員)
ドル・円相場は現在、2015年6月の1ドル=125・85円の高値をピークに、中期的な円高・ドル安基調に入ったと考えられ、17年3月以降立て続けに予定されている欧州の国政選挙が、円高の動きに拍車をかけると予想する。
その皮切りとなるのが、3月15日のオランダ総選挙だ。反欧州連合(EU)を唱える極右の急進政党である自由党(PVV)が議席数を30前後に倍増させ、第1党に躍進する公算が大きい。しかし、単独過半数の議席獲得には至らないため、PVV単独で組閣することはあり得ない。またPVV以外の政党が同党との連立に極めて消極的であるため、現与党の自由民主党(VVD)を首班とする新内閣が成立する展開が、今後のメインシナリオとして考えられる。そのため現状では、為替市場はオランダ総選挙をそれほど材料視していないようだ。
しかし、PVVが予想以上に議席を獲得したり、一転してPVVとVVDが連立政権を組む事態にならないとも限らない。欧州でポピュリズムの流れが強まることが嫌気されてユーロは急落、リスク回避の受け皿として円が買われることで、ドル・円レートも1ドル=100円台に突入することが予想される。
◇米利上げも慎重に
オランダ総選挙の結果が杞憂(きゆう)に終わったとしても、4~5月には今年最大の欧州リスクであるフランス大統領選挙が控えている。極右の急進政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が第1回投票(4月23日)では勝ち進むものの、第2回投票(5月7日)ではFN以外の政党が結党して統一候補を推すため、ルペン氏は敗北するというのが大方の予想である。
しかし、16年6月の英国のEU離脱や同年11月の米国の大統領選挙など、昨今は想定外の結果となる政治イベントが立て続けに生じており、市場予想の逆を行くパターンがまた起こらないとも限らない。ルペン大統領誕生の可能性は決選投票当日まで否定できず、市場心理は好転しにくい状況が続くだろう。世論調査で支持率が急上昇するなど、ルペン氏に追い風が吹くような調査結果が出れば、ユーロは瞬間的に暴落することもあり得る。
大統領選後もフランスは、6月に国民議会選挙を予定している。ルペン大統領が誕生しなくても、FNが議席数を急増させる可能性は否定できない。9月にはドイツでも総選挙が行われ、極右の急進政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭が警戒される。加えて、金融機関の不良債権問題が深刻化しているイタリアや、7月に国債の大量償還を抱えるギリシャでも、政情不安の高まりを受けて17年中に解散総選挙が行われる観測が出てきており、いずれの選挙もリスク回避の流れに拍車をかけると考えられる。
こうした中では、米連邦準備制度理事会(FRB)も追加利上げに慎重にならざるを得ないだろう。トランプ米大統領は2月28日の議会演説で、総額1兆ドルのインフラ投資の実施などを唱えたが、その実効性も危ういため、成長期待を反映したドル買いの流れよりも、欧州の政治イベントに伴うリスクセンチメントの悪化を受けた円買いの流れが優ると考えられる。
そこに、基調としてある中長期的な円高圧力が加わる形で、ドル・円相場は当面円高で推移しそうだ。具体的には、年後半にかけて1ドル=100円台前半が定着すると見込まれる。フランスでルペン大統領が誕生するなど想定外の展開が生じれば、1ドル=90円台に突入するだろう。
(土田陽介・三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員)