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再生医療の「オプジーボ」? 免疫細胞を増強する、がん新治療

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 村上和巳・ジャーナリスト

 

 再生医療におけるがん免疫療法は、患者本人または他人由来の免疫細胞を採取・培養して患者の体内に戻してがんと戦わせる治療だ。国内外の研究機関や企業で研究が進められている。

 

 最も有力な研究のひとつが、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を利用した「再生キラーT細胞療法」だ。京都大学ウイルス・再生医科学研究所の河本宏教授らが先端を走る。河本教授らは2013年、iPS細胞を利用してがん細胞のみを攻撃する「キラーT細胞」(免疫細胞の一種)を作ることに世界で初めて成功した。

 

 キラーT細胞は、免疫の中で特定の異物が体内に侵入した際に、その異物に合わせて攻撃をする。だが、体内に存在する量が非常に少ないため、がんと戦う戦力を高めるためには、体外で培養・大量生成して患者に投与する必要がある。

 

 キラーT細胞は血液から採取する。だが培養で増やしても一定程度増えた段階で攻撃力が弱まる特性があり、ヒトの体内に戻しても増殖の速いがん細胞には対抗できない。そこで増やしやすいiPS細胞の状態にして、大量に培養する。こうすることで従来の培養法に比べて、効率よくがん細胞を攻撃するキラーT細胞を量産できる。

 

 ◇京都大学がリード

 

 ポイントとなるのが、キラーT細胞が攻撃対象のがん細胞を記憶したまま、iPS細胞化することだ。河本教授らは、実験でその技術に成功した。

 

 iPS細胞からキラーT細胞を再生する際に、「CD4」と「CD8」という糖たんぱくを発現する細胞を他の細胞から分離し、刺激を加えて培養することで、がん細胞に対する認識能力の高い再生キラーT細胞の作製に成功し、16年11月に米医学誌『Cancer Re-search』に発表した。

 

 この発表では、試験管内で、ヒトから取り出した白血病細胞に再生キラーT細胞を加えたところ、

通常のがんに特異的なキラーT細胞と同等に白血病細胞を殺傷する能力があることが確認された。免疫機能を喪失させたマウスに白血病細胞を移植して5カ月間経過観察を行った実験でも、白血病細胞のみを移植したマウスは期間中に全例が死亡したのに対して、白血病細胞移植後に再生キラーT細胞を投与したマウスでは3割が生存するなど、一定の有効性が認められた。またがん細胞以外の正常な細胞が攻撃された形跡は認められなかったという。

 

 今後、河本教授らは急性骨髄性白血病での臨床試験開始を目標としている。

 

 現時点では、再生キラーT細胞の培養にはマウス由来の細胞やウシの血清が利用されているため、ヒトに投与するには動物成分を用いない培養方法が必要になる。ヒト以外の動物成分で培養された細胞をヒトに投与すると、その細胞が体内の免疫により排除される可能性があるからだ。

 

 本格的な有効性、安全性の確認はこれからの課題で、ヒトでの臨床試験はもう少し先になりそうだ。臨床応用が実現した場合も、がん細胞そのものが免疫にブレーキをかける機構を持っているため、この治療法のみで有効性を示せるかどうかは未知の部分がある。

 

 ◇再生医療の最大市場へ

 

 ヒトの持つ免疫を強化してがんを治療する発想は従来からあったが、成果を上げられなかった。近年、その原因はがん細胞が免疫機能にブレーキをかけてしまうためということが分かってきている。研究を生かして開発されたのが、ブレーキを解除してキラーT細胞による攻撃を復活させる小野薬品工業の「オプジーボ」に代表される抗体医薬「免疫チェックポイント阻害薬」だ。

 

 だが、画期的な新薬と期待されるオプジーボでも、奏効率は3割程度。そこで再生医療を使った「アクセルを踏み込む」治療として再生キラーT細胞が再び注目を集めている。

 

 アクセル型のがん免疫療法で現在行われている治療のほとんどは、患者の体内から取り出した免疫関連細胞を活性化あるいは増殖させて患者の体内に戻す方法だ。厚生労働省が認可する高度先進医療としてごく一部の大学病院などで行われているものと、保険適用外の自由診療クリニックで行われているものがある。しかし、いずれもまだ決定打といえるほどの治療成績には至っていない。

 

 経済産業省の予測では、再生医療における「がん免疫」分野の国内市場規模は、12年の69・9億円から、20年には231・2億円、50年の潜在市場は5719・1億円に拡大するとみられている。再生医療の中でも最も市場が大きくなると期待されている分野だ。将来、T細胞移植によるがん免疫療法に保険が適用されれば、再生医療における「がん免疫」の市場は一気に拡大するとみられている。

(村上和巳・ジャーナリスト)

 

*週刊エコノミスト2017年3月21日号 「再生医療 臨床ラッシュ」掲載

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