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注目集める「キャレグジット」 支持広がるカリフォルニア州の独立運動

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土方細秩子・ジャーナリスト

 

 

「キャレグジット」(Calexit)という言葉が注目を集めている。英国の欧州連合(EU)離脱を指す「ブレグジット」にちなんだ、米カリフォルニア州の合衆国からの独立を目指す運動だ。カリフォルニア州は米国の中でも外国生まれの住民の割合が高く、経済規模では米、中、日、独、英に次ぐ6番目に相当する。トランプ氏が昨年11月の米大統領選で当選後、移民締め出し政策などへの反発もあり、運動が徐々に支持を広げている。

 

 カリフォルニア州の独立運動そのものは、2015年に創設された「イエスカリフォルニア」という市民団体が主導。昨年の米大統領選後ににわかに賛同者が増え、ボランティア登録をした住民は現在8000人を超える。「歴史的な」カリフォルニア州独立を諮る住民投票を「19年3月」に実現することを目指し、ボランティアらが住民投票実現のための署名集めを精力的に行っている。ロイター/イプソスの世論調査では、昨年7月の時点でキャレグジットに「賛成する」と答えた住民は20%だったが、今年2月には41%とほぼ倍増している。

 

 そもそも、なぜカリフォルニア州で独立運動が起きているのか。大きな背景の一つが経済面だ。同州の国内総生産(GDP)は15年、2兆4600億ドル(約280兆円)と米国全体の13%を占め、フランスをも上回っている。「イエス カリフォルニア」は、同州が「年間で160億ドルを連邦政府に拠出し、他州の経済を支えている」と主張するが、こうした経済的不均衡はもともと同州住民の不満の種ともなっていた。

 

 IT産業が集積する同州北部のシリコンバレーには、アップルやグーグルを傘下とするアルファベット、フェイスブック、インテル、テスラなど世界でも有数の企業が立地し、シェブロンなどエネルギー企業も本社を置く。また、ロサンゼルスはハリウッドをはじめエンターテインメント産業が集まるほか、ロサンゼルス港やロングビーチ港は北米の貨物取り扱いの一大拠点となっている。ワイン生産なども盛んで、強靭(きょうじん)な産業構造は他州の追随を許さない。 

 

 ◇起業家、投資家も賛同

 

 また、カリフォルニア州は米国の中でも特に移民が多い地域で、人口構成が他州と異なっているという社会的な背景もある。同州の不法移民を含めた移民人口は1000万人を超え、米人口統計局によると15年時点で同州人口の27%が外国生まれ。特に、ロサンゼルスやサンフランシスコのような大都市では、外国生まれの住民の率は3割を超えており、全米平均(13%)の2倍以上となっている。

 

 シリコンバレーでは優秀な人材不足に常に悩まされており、現在でも従業員の半数近くをインド、中国をはじめとする海外からの労働者が占める企業も少なくない。また、外国生まれの住民は、シリコンバレーのIT企業だけではなく、農業、建設などさまざまな産業で労働に従事し、カリフォルニア州は伝統的に移民に寛容な政策を取ってきた。現在のトランプ政権による移民締め出し政策は、同州の経済にも大きな影響を及ぼす可能性がある。

 

 カリフォルニア州は民主党の大票田で、昨年の大統領選でもクリントン氏がトランプ氏の倍近く得票した。米大統領選後、複数のIT起業家やベンチャー投資家らが同州の独立運動に賛同し、資金提供の意を表明したことで、独立運動が大きな注目を浴びた。賛同したのはチューブ内を高速で走行する次世代交通システムを開発するハイパーループ・ワンの共同創業者でイラン系のピシュバー氏や、シリコンバレーの投資家カラカニス氏らで、現在もこの動きは広がり続けている。

 

 ◇「聖域州」の住民投票

 

 トランプ大統領とカリフォルニア州政府の関係も悪化の一途をたどっている。今年に入りトランプ氏が移民の入国を制限する最初の大統領令を発した後、同州は「『聖域州』になるかどうかの住民投票を行う」と発表した。米国には「聖域都市」と呼ばれる移民に寛容な自治体が600都市以上あり、トランプ大統領はこうした聖域都市に対し「連邦政府からの補助金を削減する」とも宣言したが、同州はこれに対抗して「州」単位での「聖域化」を検討するとしたのだ。

 

 トランプ大統領は「カリフォルニアはコントロールできない」と批判を強めた。特に、カリフォルニア大(UC)バークレー校で2月1日、保守系論客のヤノプルス氏の講演を暴徒が阻止した事件について「言論の自由を認めない公立大学には連邦政府からの補助金をカットすべきだ」と感情的な反応も示した。しかし、キャレグジット運動にとっては、こうした発言も「連邦政府の一部でなくなれば大学補助金を受ける必要もなくなり、独自の大学運営システムが築ける」と強気に解釈する。

 

 トランプ大統領が進める化石燃料の復活や環境規制の緩和は、州産業や州のポリシーに逆行するものでもある。オバマ政権下で米環境保護局(EPA)が推進してきた車の排ガス総量規制などに対しては、自動車メーカーからは「実現不可能ではないが開発費がかさみ、それが車の価格に跳ね返り消費者にとっても不利になる」などの反対意見が多かった。一方で、規制強化によりそれを克服するための技術も生まれる。自動車で言えばテスラの電気自動車(EV)などがその好例だろう。

 

 ◇環境規制でも軋轢

 

 シリコンバレーを中心とするIT企業は、ソフトウエアや周辺技術により車の燃費を向上させる技術の開発を進め、現在では自動車メーカーの多くがシリコンバレーに研究施設を開設するなど、州経済にとってはマイナス面ばかりではなかった。さらに、キャレグジットにより連邦政府への拠出金負担がなくなることで、同州では法人税を含む税制が現在よりも軽減される見込みであり、企業からの歓迎ムードもある。

 

 州政府にとって最大の懸念となりそうなのが、同州の環境問題に対する連邦政府の介入だ。州の大気資源局(CARB)はもともと、EPAとの対立が目立っていた。CARBが推進する大気汚染防止法では、自動車メーカーが州内で販売する車の約4割を2030年にはゼロ・エミッション(無公害車両)にする必要がある。これはEPAの排ガス総量規制を上回る基準で、「排ガス基準を設置できるのは連邦政府のみ」とするEPAとの軋轢(あつれき)が絶えなかった。

 

 トランプ大統領は、このカリフォルニア独自の排ガス規制に厳しい態度で臨むとされている。中でも、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)に絡んでは昨年、FCAが米国内で販売していたディーゼル車両の排ガス量について、EPAが「実際の数値と食い違う」と指摘した。これは、独フォルクスワーゲン(VW)に端を発し、三菱自動車などにも波及した排ガス規制の不正逃れ問題の一環で、最初にVWの問題を指摘したのはCARBだった。 

 

 しかし、トランプ大統領が指名した新しいEPA長官のブリュット氏は「地球温暖化はうそ」と公言する人物でもあり、この問題は昨年末以来、棚上げ状態となっている。また、FCAは今年1月、オハイオ州などに自動車組み立て工場の建設を発表し、トランプ大統領が賛辞を贈った。連邦政府側はこの問題をうやむやにしようとしているが、CARBはVWと同様の厳罰を求めている。トランプ大統領の数々のカリフォルニア敵視発言に対し、昨年11月にはロウ州議会議員が「独立運動のための法案提出に協力する」と述べたほか、州政府内にも独立運動に理解を示す人が増えているという。

 

 実は、連邦政府からの離脱を目指すのはカリフォルニアだけではない。米国最大の面積を誇るテキサス州でも以前から同様の独立運動があり、キャレグジットと歩調を合わせるように住民への働きかけを強めている。メディア上では、カリフォルニア、テキサスの2州が独立すれば、次々に連邦政府から離脱する州が現れ、米国は現在の半分程度になる、という予測まで飛び出している。

 

 ◇ロシアの関与疑惑

 

 ただし実際の独立へのハードルは高い。まず、独立を諮る住民投票を行うための嘆願書に、58万人以上が署名した上で、住民投票でも55%以上の賛成が必要となる。さらに、米合衆国憲法上の規定で、全米38州以上の知事の賛同、連邦議会での3分の2以上の賛成があって、初めて独立は実現する。現実的には、カリフォルニア産の製品を他州に輸出するには関税がかかるし、安全保障面では州の軍を整備する必要もある。

 

 さらに今、独立運動そのものへの疑惑が噴出している。「イエス カリフォルニア」の主導者であるマリネリ氏は昨年12月、ロシア国内に「カリフォルニア共和国大使館」を設立し、内外から大きな批判を浴びた。本人は「文化交流施設」としたが、場所を無償で提供したロシアの反グローバリゼーション運動団体はホームページ上で「独立カリフォルニア共和国大使館開設を歓迎」と掲げており、独立運動とロシア政府との関係も疑われることになった。

 

 ロシアが米国の国力を弱めるため、カリフォルニア独立運動を支援している、という見方もまことしやかに流れた。また、マリネリ氏自身は共和党支持者で「大統領選ではトランプ氏に投票した」とも公言し、反トランプで独立運動に共感した人の中に戸惑いも生じている。 

 

 マリネリ氏は2月13日、ロサンゼルスで記者会見を開き「ロシア政府とは何の関わりもなく、資金援助なども一切ない」と述べ、「独立運動はトランプ政権誕生とも関わりなく、以前から続いていたものだ」と強調した。

 

 ただ、それでもキャレグジットへの支持は、確実に広がり続けている。「アメリカ・ファースト」(米国第一)を掲げ、ブレグジットも支持したトランプ大統領の足元で、カリフォルニア州の独立が公然と語られることの衝撃は決して小さくはない。

(土方細秩子・ジャーナリスト)

*週刊エコノミスト2017年4月4日号掲載


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