◇低い資源投資のリターン
◇バリューチェーンの虚実
五百旗頭 治郎(大和証券チーフアナリスト)
日本の総合商社の投資は「順張り」が多い。高値の時に横並びで買い、価格が下がると投資を縮小させる。北米シェール事業への投資などがその典型だ。総合商社の投資額(特に資源分野への投資額)と資源価格は、ほぼ連動する(図)。
海外に目を向けると、資源市況の下落に苦しむグローバル資源企業が保有資産の切り売り、投げ売りを加速し始めた感がある。英資源大手アングロ・アメリカンは2月、経営資源をダイヤモンドなど三つのコア事業に集中させ、石炭事業や鉄鉱石事業は売却すると発表。米鉱山大手フリーポート・マクモランは、住友金属鉱山に米国の銅鉱山権益の一部を売却した。一方、日本の大手商社は、新規投資を抑制している。特に資源分野への投資には消極的。過去数年間の過剰投資が、投資リターンの低下や減損処理が必要な高コスト投資を招いたという反省からだ。
大手5社(伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅)の2010~14年度累計の新規投融資額は合計約14兆円に上る。内訳は、資源分野へ計約6兆円、非資源分野が計約8兆円。会社別では、三菱と三井が各4兆円強、伊藤忠、丸紅、住友は各2兆円前後を実行している。
資源分野では、保有権益の拡張投資のほか、新たに鉱山権益、米シェール開発を含む石油ガス開発権益などを次々と取得。非資源分野でも、伊藤忠による中国中信(CITIC)への出資(約6000億円)、丸紅の米穀物商社ガビロン買収(約2700億円)、三菱によるノルウェーの鮭養殖会社買収(約1500億円)など大型買収・出資が相次いだ。
だが、この期間の純利益は減少傾向となっている。資源価格が高い頃に買った資源資産は、高値づかみのため、減損が出ている。非資源の大型投資も、投資前の利益計画を下回るケースが散見される。その結果、投資性資産残高は急増しても、総合商社の純利益はあまり増えていないのだ。資源安の環境下、このままでは順張りで投資を抑制し続けかねない。だが、優良な資源資産が売りに出てくるなら、絶好の逆張りのチャンスに備える時ではないか。
なぜ今、資源投資を積極化させる必要があるのか。それを理解するには、なぜ総合商社の投資リターンが低いのかを考えなければならない。その要因は、①投資戦略・哲学が曖昧、②資産売却、資産価値向上(バリューアップ)に対する意識が低い──という点にある。