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第52回 福島後の未来:再生エネをインフラ輸出の柱に 多様性を重視し、地域を生かす=磯野謙

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◇いその・けん  1981年生まれ。慶応義塾大学環境情報学部卒業。コロンビアビジネススクール・ロンドンビジネススクールMBA。リクルートや風力発電事業会社を経て、2011年に自然電力を設立。
◇いその・けん  1981年生まれ。慶応義塾大学環境情報学部卒業。コロンビアビジネススクール・ロンドンビジネススクールMBA。リクルートや風力発電事業会社を経て、2011年に自然電力を設立。

磯野謙(自然電力代表取締役)

 

日本政府は高速鉄道や原子力発電所などのインフラ輸出を積極的に支援しているが、その候補に、再生可能エネルギー発電所を加えることもできる。国内外で普及が進んでいる再生エネは大きな産業に成長する可能性を秘めているからだ。

 

 2012年7月に始まった再生エネ電気の全量固定価格買い取り制度(FIT)は、日本の再生エネ導入を促進させる支援制度だ。開始から5年が経過し、FITの効果で国内の太陽光発電導入量は急拡大した。

 

 開始時点の太陽光発電の国内累計導入量は約480万キロワットだったが、17年2月末時点で7・8倍の約3800万キロワットに達した。世界の中でも特筆すべき速度で普及が進んだ。この国内の開発で培った多くの知見やノウハウは、海外の発電所開発に活用できる。

 

 再生エネの導入がこれから拡大していく国・地域は途上国が中心になるだろう。送電線が十分に整備されていない地域でゼロから電力インフラを築くには、分散型電源である再生エネが適しており、大規模火力発電所と送電線整備コストよりも安く開発できるからだ。

 

 調査会社ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスによると、15年の全世界の発電容量は64億キロワット。そのうち31%を再生エネ電源が占めている。40年には世界の発電容量は135億キロワットまで拡大し、再生エネは56%まで増えると予測されている。そこで日本の再生エネ企業がどこまで海外に食い込めるかがカギになる。

 

 ただし、現状は残念ながら再生エネ発電事業者として日本企業の海外での存在感は薄い。日本の再生エネ発電事業者は中小企業が多く、国内市場に手いっぱいだからだ。

 

 注意すべき点は、太陽電池メーカーが海外に機器を輸出したり、現地で工場を建てて生産するのがインフラ輸出ではない、ということだ。

 

 ◇現地への理解と貢献

 

 インフラ輸出はモノの輸出とは勝手が違う。発電所を開発・運営するにあたり、その国や地域の法制度、言語、文化、歴史、気候など、あらゆる環境を理解することが前提だ。そのうえで地元の住民や地元企業と協力関係を構築するのだ。

 

 これは理屈は簡単だが実際に実行するのは難しい。とりわけ大資本が発電所を建設し、地域に吹く風や日光を利用して発電した利益を吸い上げて、地元になにも残らない開発・運営方式では、地域住民から理解を得ることはできないだろう。

 

 日本国内の地方の発電所の開発では、地元住民や地場企業と友好関係を築いている事業者は多数存在する。地元と友好関係を築けている事業者が、言語や文化の壁を乗り越えれば、再生エネ発電所のインフラ輸出は可能になると考える。

 

 日本では17年4月からFITを抜本的に見直した改正FIT法が施行された。今後は2000キロワット以上の太陽光発電は、コスト競争を促すために入札を実施する。また、売電の権利を安易に取得できなくするために電力会社と送電線への接続契約を締結してからでないと、FITの認定を受けられなくなった。さらに1キロワット時当たり40円だった太陽光発電の買い取り価格は、17年度には半分近くの同21円に引き下げられた。このため日本の太陽光発電産業は停滞すると見られている。

 しかし世界を見ると、再生エネ政策でもっと厳しい条件の国はたくさんある。重要なのは世界全体で見た今後の動向を把握しておくことだ。

 

 世界の大手エネルギー会社はここ2、3年で次々と、新興の再生エネ企業との提携や買収をしている。例えば、ドイツ第2位のエネルギー会社RWEは再生エネベンチャーのベレクトリック社を買収。フランスの大手エネルギー会社、GDFスエズは社名を15年にエンジーに変えて再生エネ事業を強化している。大手エネルギー会社は、既存ビジネスモデルではもはや成長できないことを熟知して、再生エネを事業の主力にシフトしているのだ。

 

「日本のFITの買い取り価格が下がった」という断面だけを見て、再生エネ産業をとらえてはいけない。そもそも太陽電池モジュールはコモディティー(国際商品)化し、急激なスピードで価格が下がっている。この10年で価格はおよそ9割も下がり、1キロワット当たりの設備コストは日本でも29万円にまでなった。

 

 太陽電池モジュール価格が今後も下がっていくのは世界の潮流だ。設備コストが低下すれば、価格競争力のある電源として普及することにもつながり、結果として再生エネ発電事業者のビジネスチャンスは拡大すると考えている。

 

 ◇多様性こそ強み

 

 私は11年6月に「自然電力株式会社」を共同創業者2人とともに立ち上げた。元々、風力発電事業会社で働いており、11年3月の東京電力福島第1原子力発電所事故を契機に日本のエネルギーのあり方を変えたいと思い、会社を立ち上げた。

 

 自然電力は太陽光発電や風力発電などの再生エネベンチャー企業だ。日本全国で17年5月末時点で約70万キロワットの太陽光発電事業に携わった実績を持つ。グループ会社を含めると、再生エネ事業の開発、設計・調達・建設から、運営・保守、さらに発電資産の運用までをワンストップサービスで提供できる。

 

 我々の転機はドイツの再生エネの開発・施工大手企業ユーイとの提携だ。創業当初の11年冬に、再生エネ先進国であるドイツの世界最先端の技術・ノウハウを学びにいこうと、創業者3人で1週間ほどドイツを訪れた。

 

 そこで訪れた大手企業の1社がユーイだった。ドイツのヴェルシュタットという町に本社を構えているユーイは、エネルギー効率の優れた本社オフィスで使用する電気にも再生エネを用い、周辺には風車や太陽光発電所が並び、まさに自然と人間が共存している世界をつくっていた。社員食堂には地元の食材を用い、社内には保育園を設置していた。訪問して3人全員が「この会社と組みたい」と一致した。

 

 世界最先端の再生エネ企業であるにもかかわらず、私たちの訪問にも気さくに接してくれた。そのおかげで私たちも一緒に日本や世界の未来を議論することができ、すぐに意気投合。それから業務提携し、13年に合弁会社設立と、矢継ぎ早に話は進んでいった。

 

自然電力が開発した鹿児島県の薩摩川内開拓跡地太陽光発電所(自然電力撮影)
自然電力が開発した鹿児島県の薩摩川内開拓跡地太陽光発電所(自然電力撮影)

 自然電力は元々、再生エネ普及により社会の課題を解決していくという理念を掲げている。国内だけでなく今後、海外にも進出する。

 

 経済産業省の16年度「質の高いエネルギーインフラシステム海外展開促進事業(円借款・民活インフラ案件形成等調査)」に採択されてフィリピン共和国ミンダナオ島カラガ地域で風力発電の事業化可能性調査に取り組んだ。具体的には、関連法制度、技術・財務・経済や環境・社会的側面から総合的に風力発電事業の実施に向けて調査を行った。

 

 自然電力の社員はユーイから派遣されている社員に限らず、多国籍だ。ドイツ、スペインなど10カ国以上にわたる。そういった社員がいることで、世界各地での再生エネ発電事業の知見を国内の太陽光発電所開発や建設に生かせるだけでなく、この多様性は、海外で事業を展開する際にも強みになるはずだ。

 

(週刊エコノミスト2017年8月29日号掲載)


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