卒母バンザイ 男捨離の時代
◇子どもから卒業する覚悟を
◇人生100年時代の生き方
西原理恵子さんが『毎日新聞』で15年間連載した漫画「毎日かあさん」は6月、「卒母(そつはは)」して終了した。西原さんが提案した新しい家族のかたちは、母だけでなく父にも社会にも新たな可能性を生み出す。
今年の春、息子が大学に入学し、娘も16歳で自分の道を歩き出したため、母親卒業を決めた西原理恵子さん(52)。終わるという意味を持つ「卒」と母親は、一見結びつかないが、母と子という家族の関係を絶つわけではない。卒母は、自立した子への干渉はせず、女性としての「第二の人生」を送るという宣言だ。
親が子に対して願うのは、将来、自立して生きていくことだ。子の素質は千差万別だが、それを花開かせて、社会に居場所を見つけられる大人になるように送り出せれば十分だ。それができれば、本来は子育てから「卒業」して自由になれるのだ。
しかし、子離れできない親もいる。
どこで道を誤ったのか──。長男(28)の発言に、母親(58)はがく然とした。
東京都内で夫婦共働き。長男が1歳になったのを機に職場復帰し、保育園には夫婦協力して送り迎えした。自分の子を「弱い」と見て、進路に苦労しないようにと、中学校で大学までエスカレーターの私立に入れた。就職先は大学の紹介を受けて、「これで一安心」と思った半年後のことだ。突然、長男が切り出した。
「お母さん、仕事を辞めたい。ぼくのやりたいことではなかった」。紹介された仕事では満足できなかったのだろう。母親は「あなたの人生だから、やりたい仕事が見つかるまで、じっくり考えればいい」と背中を押した。しかし、長男の答えは予想しないものだった。「お母さん、違うんだよ。ぼくは『仕事』がやりたくないんだよ。これまでがんばってこなかったから、競争は向いていないんだ」。あれこれ手を掛けてきたのは、「わが子のため」と信じてきたが、最も恐れていたニートになった。
日本では子育てに対し、3歳までは母親が常にそばにいるのがよいとする「3歳児神話」や、母は子のために無限の愛を注いで当然で、自己犠牲をいとわないという「母性愛神話」が無言の圧力になり、世話を焼きすぎてしまう。
この母親も、フルタイムで働きながら、離乳食や早朝に起きて弁当を手作りしてきた。学校や習い事にも送り迎えし、あれこれと手を掛けてきた自負がある。しかし今、「子どもの世話を焼くのはただの自己満足で、本当に必要なのは自立を促すことではないか」と気づいた。
◇固定観念に縛られない
夫婦共働きが一般的になり、働きながら育児をする「毎日かあさん」は、働く女性から大きな共感を集めた。西原さんの卒母宣言を受け、『毎日新聞』が意見や体験談を募集した「卒母のススメ」には、読者から多くの賛同が寄せられている。
「母親を卒業し、自分の子どもだけでなく他の若者からも『かっこいい』と思ってもらえる大人を目指したい」
「子が成長するのは遅い。時間がかかる。そんなに長い間、やりたいことを我慢する『お預け状態』が続くなんて嫌だ」
「仕事が忙しくマックの夕食だった夜、お弁当屋でから揚げ弁当を食べさせた夜。夜中に『こんなんでいいのか』と涙しました。今、子どもたちが『マックやから揚げ弁当の時は、めっちゃうれしかった』と話しているのを聞いて、『そんなもんなんだ』と反省していた頃の自分に教えてあげたいと思いました」
子どもから、母の子離れを求める意見もあった。
「無力・無能扱いされているように感じる。実際に何もできないかもしれないけれど、手を出されると、さらにできなくなってしまう。自分がどの程度なのか見極めないといけないのに」
一方で、卒母に対する懸念の声もあり、特に高齢女性からは、反対意見が目立った。
「母は一生続くもの。卒母なんて無責任だ」
「子供たちの気持ちも確認しないで勝手に卒母宣言しても、それは『中退母』でしかないと思うのです」
女性の働き方が変わりつつあることに伴い、社会が求める母親像や母子関係も大きく変わる。学校や、会社の「卒業」は、年齢で区切られて自動的に送り出される。しかし子育てに区切りはない。母親には子離れをする覚悟が求められるのだ。
卒母は、社会の常識を変え、人生100年時代に新たな生き方を提案する可能性を秘めている。子育てを終えた母親には楽しい卒母ライフが待っている。さあ、卒母しよう。
(編集部)
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