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特集:やりくり上手はあの自治体 2017年11月21日号

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「もしもの備え」16年度速報値

十分水準の積み立ては2割未満

 

 12月は地方自治体にとって勝負の月である。次年度の地方税制・財政の枠組みを決める地方財政対策、通称「地財(ちざい)対策」が大詰めを迎えるのだ。今年話題の一つとなっているのが、各自治体で予算とは別枠で積まれた「21兆円の基金」だ。

 

「国の財政状況が悪化している中でも、地方では剰余金を積み立てている」という批判は、これまでも財務省側から陰に陽に、地方財政を所管する総務省や自治体に投げかけられてきた。国税などを原資として自治体に配分する交付税を少しでも減らしたい、という財務省の思惑が透けて見える。今年は5月に経済財政諮問会議で民間議員が「新たな埋蔵金と言われかねない」と批判したことで一層の注目を集める。果たして、自治体は過剰に基金を積み立てているのだろうか。

 

 基金には(1)急激な歳入減・突発の歳出増に備えて積み立てる「財政調整基金」(2)将来の借金返済(地方債償還)に備えて積み立てる「減債基金」(3)その他、庁舎建て替えなど個別用途に備えて積み立てる「特定目的基金」の3種類がある。このうち、多くの自治体で重視しているのが財政調整基金だ。

 

 ◇都市部で高く

 

 表1~3は、財政調整基金が各自治体の財源規模に占める割合を示したものだ。算定に使った「標準財政規模」とは、地方財政独特の用語。「人口○人のこの自治体で標準的な行政運営をすれば、このぐらい見込めるだろう」という財源額を示したものだ。「一般財源」が現実に組んだ予算に基づく数字なのに対して、標準財政規模は仮想の一般財源規模である。

 

 標準財政規模に占める赤字比率が5%(市町村では20%、東京都は別途設定)に達すると、破綻状態である「財政再生団体」に転落し、行財政運営に厳しい制約が課せられる。財政再生団体に転落した北海道夕張市が、公立学校統廃合やごみ収集有料化を余儀なくされたのは記憶に新しい。

 

 本誌ではこれを逆算して、不測の事態があっても、即財政再生団体に陥らない水準かを調べた。具体的には、標準財政規模に占める財政調整基金の割合が5%(市町村では20%)以上かを見た。5%以上あれば、仮に標準財政規模に占める歳入不足が5%になっても穴埋めできるからだ。

 この水準をクリアしたのは、都道府県では東京都や大阪府など14都府県▽政令指定都市(人口50万人以上)では大阪市のみ▽中核市(同20万人以上)では豊田市など4市にとどまった。「埋蔵金」とは指摘されたが、少なくとも財政調整基金については十分な積立額とは言い難い。

 

 明らかになった数字は、自治体の置かれた立場や首長の考え方を反映する。積立額が大きい東京都や豊田市は、地元に大手企業が立地しており、税収の多くを、年度ごとのぶれが大きい法人2税(法人住民税、法人事業税)に頼っている。東京都財務局は「景気変動が大きい不安定な財政構造なので、財源が著しく減る事態に備えた」と説明する。

 

 一方で、京都市は残高がゼロ。円高で地元メーカーの業績がふるわず税収が減ったために基金を取り崩した結果だ。都道府県で随一の低さの京都府は「限られた財源を有効活用するため」(財政課)だ。

 

 富山県は財政調整基金だけを見れば低いが、「他の基金とも合わせて標準財政規模の5%程度を目標にしている。現在はこのレベルを確保している」(財政課)。財政当局者には「財源規模の5%」(市町村は20%)というラインが頭の隅にあるようだ。

 

 財政調整基金はいくら、あるいは何割積まなければいけないという全国一律の基準はない。だが、独自基準を設けている自治体は多い。

 

 基金への疑問が高まったのを機に、総務省は11月7日に自治体の基金実態調査を公表した。この中で「何を基準に積立額を決めているか」を都道府県に尋ねたところ、「過去の取り崩し実績(災害等)から必要と算定した額」34%▽「決算を踏まえて可能な範囲で」34%▽「財政指標(標準財政規模、一般財源規模など)の一定割合」31%──が多かった(複数回答可)。

 

 5%に満たない県にも思惑がありそうだ。ある県の財政当局経験者は「積み立てすぎると、県議や各部署から『そんなにお金があるならば、基金を取り崩して新たな事業をしてほしい』と歳出圧力が強まる」と話し、「少し足りないぐらいに見せるのも腕の見せどころ」と証言する。4%台の県が多いのも、この証言を裏付けるかのようだ。

 

 ◇地方消費税でも応酬

 

 今年の地方財政でもう一つ話題になっているのが、地方消費税の配分方式だ。消費税は8%を国が徴収し、うち1・7%を都道府県に割り当てる。現在は、消費額に重きを置いて配分されるため、東京都や大阪府など一大消費地である都市部の額が多い。

 

 この配分方式だと、たとえば奈良県民が大阪府でモノ・サービスを得て支出した消費税は、大阪府の税収につながる。居住地ではなく消費地が税収を確保できる仕組みのため、消費額が相対的に少ないベッドタウンの自治体からは疑義が出ていた。

 

 潮目が変わったのは10月末。財務省が、人口を重視した配分への見直しを提案したのだ。この案で税収減につながる東京都は反発、野田聖子総務相も「税収を最終消費地に適切に帰属させるのが基本中の基本」と疑義を呈した。

 

 一方、これまで地方消費税の配分が少なかった県には税収増となる。財務省にとっては、税収が増える県への交付税を減らせる可能性がある。

 

 複雑に利害が絡み合う中、財務省・総務省・自治体は早くも火花を散らしている。ただし、この議論の背景には、税配分や受益者負担という経済学的要素の他に、都市部・地方の政治家間での根深い遺恨もありそうだ。

 

 基金の妥当性、地方消費税の配分方法、地方交付税のあり方──。「地財対策」の折衝が本格化するのを前に、地方財政の論点を特集する。

(種市房子・編集部)

週刊エコノミスト 2017年11月21日号

定価:620円

発売日:11月13日



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