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専門知が異様に軽視される日本にアカデミック・ジャーナリズムを=シノドス・芹沢一也代表

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芹沢一也(シノドス代表)

https://synodos.jp/

せりざわ・かずや◇1968年生まれ。慶応義塾大学非常勤講師などを経て2007年、シノドスを創設。09年、飯田泰之氏、荻上チキ氏とともにシノドスを法人化。著書に『狂気と犯罪』『暴走するセキュリティ』など。


 シノドスは「アカデミック・ジャーナリズム」という旗印を掲げて記事を配信しています。記事の特徴は、「そのテーマについて、もっとも詳しい専門家が執筆する」というものです。

 

 たとえば、何かについて困っている、何かについて詳しく知りたい、というときに、皆さんはその道の専門家に話を聞きたいと思いませんか? シノドスはそう考え、研究者や弁護士、医師といった専門家、あるいはNPOやNGOに従事するアクティビスト、そして当事者などにご執筆いただいています。訳知りな評論家や印象批評を行う文化人が登場することはありません。

 

 なぜそのようなメディアを立ち上げようと考えたのか?

 

 新聞や雑誌、テレビなどで、いわゆる識者として発言する人たちが非専門家であるために、社会に害悪を流していると考えたからです。日本はメディアに限らず、専門知が異様に軽視されている社会です。

 

 たとえば少年犯罪を例にとりましょう。凶悪な少年犯罪は年を追うごとに減少し、また厳罰を志向する対策は効果がない、というのが犯罪学の常識です。しかし、マスメディアはあたかも少年犯罪が増えているような報道をしてきましたし、また少年法は厳罰の方向で改正を重ねてきています。こうした事態は少年犯罪の領域に限らないでしょう。専門知を無視した報道と施策は、むしろありふれた事柄です。

 

 人々が知識や情報をインターネットで得るようになって久しく、そうした傾向は日々加速しています。ところが、専門知の軽視、もっといえばデマやうそが最も流布しているのがネットの世界です。少し前に世を騒がせたDeNAの事件などは氷山の一角ですし、昨今はフェイクニュース問題も深刻になっています。そうしたネット環境にあって、自由に、つまり無料でアクセスできる、専門知にもとづいた良質な記事をシノドスは配信しています。

 

 ◇課金でも広告でもなく

 

 ターゲットとする読者は二つです。

 

 ひとつは、知識や教養を求めている一般の読者。欧米のクオリティーペーパーの読者のような読者を想定しています。主要なデバイスがスマートフォンにシフトするにしたがって、スマホでも読みやすいようにと記事は短くなる傾向がありますが、シノドスではそうした配慮は一切しません。取り上げるテーマを論ずるのに過不足ない形でご執筆いただいているために、だいたい1万字程度となっています。

 

 もうひとつの読者ターゲットはメディア関係者です。メディアが何らかのテーマを取り上げるときに、「そのテーマであればこの人」とご提案するインデックスとしての意味ももたせています。シノドスにご寄稿いただいた執筆者の多くが、新聞やテレビ、雑誌、あるいは他のネットメディアにも登場していますが、こうした循環を促進することで、専門知がより広く流通する状況をめざしています。

 

 ネットメディアの収益源は、おもに課金か広告のふたつですが、シノドスは自由にアクセスしていただくために課金はしておらず、また広告モデルはPV至上主義に傾く傾向があり、結果として記事のクオリティーが下がるのでこれも採用していません。有料のメールマガジンを発行し、ファンクラブの会員を募ることで、読者に支えていただくという形態をとっています。

 

 こうしたやり方ではマスプロダクトは困難ですが、シノドスは目利きのスタッフが他にはない記事を紹介する、「知のセレクトショップ」のようなメディアであればよいと考えています。

 

*週刊エコノミスト2018年4月3日号「ネットメディアの視点」

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