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第69回 福島後の未来:導入余地なお大きい再生エネルギー 電力会社と企業の対話が拡大の鍵=リリー・ドンジ

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リリー・ドンジ(米ロッキー・マウンテン研究所)

◇リリー・ドンジ(Lily Donge)


 米エール大学経営大学院で経営学修士号(MBA)を、同大学で国際開発学修士号をそれぞれ取得。コンサルティング会社や資産運用会社、シンクタンクなどを経てロッキー・マウンテン研究所入社。同研究所でビジネス再生可能エネルギーセンターを共同設立し、現職。


 

 米ロッキー・マウンテン研究所(本部・コロラド州)のビジネス再生可能エネルギーセンターは、再生可能エネルギーに関する研究機関であり、同時に、その導入を後押しする取り組みを進めている。


 米ワシントン、ニューヨーク、コロラド州バサルト、同ボルダーの4カ所を拠点に、具体的には、教育・研修事業などを通じて再生可能エネルギー導入を支援する。需要側の意欲を引き出すいわば「ディマンド・プル」型の取り組みだ。


 センターは、米飲料・食品大手ペプシコや製薬大手ノボノルディスク、自動車大手ゼネラル・モーターズ、独シーメンスなどの多国籍企業をはじめ、再生可能エネルギー開発業者や、弁護士事務所、コンサルティングファームといったサービス企業を含め、さまざまな企業が集まるプラットフォームでもある。


 現在は200以上の企業や団体が参加し、参加企業・団体の再生可能エネルギーの購入量は累計約100億ワットを超えた。日本からも、ホンダの米国法人が参加している。多様な企業や人が一つの場に集まることで、再生可能エネルギーへの円滑な移行を目指している。

 

 ◇広がる普及の輪

 

 米国とメキシコにおける企業の再生可能エネルギーの購入状況を見てみると(図)、当初は米グーグルやマイクロソフト、アップル、フェイスブックなど、IT関連の大手企業による取引が多かった。


 しかし最近では、幅広い産業で再生可能エネルギーの購入契約が拡大している。米小売り最大手ウォルマートやアップルは、自社で再生可能エネルギーを導入するだけでなく、取引先にも再生可能エネルギーを利用するように促し、取り組みの輪を広げている。


 もともと企業の経営者は、再生可能エネルギーについてよく理解していないことが多い。優先順位が本業にあるのは当然だ。


 とりわけ、エネルギー市場は複雑だし、理解するのに時間もかかる。平均的な最高経営責任者(CEO)が、エネルギー問題について考える時間は1年に3分間程度にすぎないとの指摘もある。


 我々は、こうした状況を変えていきたい。


 では、再生可能エネルギーの導入をさらに加速するにはどうすればよいか。


 まず、導入コストの一段の低下が必要だ。企業は、社会貢献や環境活動としてではなく、あくまで「ビジネス」として再生可能エネルギーの導入を決断できる環境を整えなければならない。


 次に、顧客や取引先をはじめ、社員や株主など、社会全体が再生可能エネルギーの導入を求める状況になっている必要がある。


 さらに、企業トップが温室効果ガスの削減に野心的になることだ。温室効果ガス排出量を減らすためには、再生可能エネルギーの導入が最も有効だ。企業トップがこの点を認識する必要がある。


 現在は世界各国でかつてないほど再生可能エネルギーの導入機運が高まっている。導入コストは現在でもかなり低い。そのため、再生可能エネルギーが数あるエネルギーの選択肢の中から選ばれる状況になりつつある。


 つまり、再生可能エネルギーがビジネスとして成り立つようになっている。

◇米国も導入機運衰えず

 

 地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱を表明した米国も同様だ。協定離脱を決めたトランプ大統領の就任後も、気候変動対策への機運は決して衰えていない。米国を代表する企業やカリフォルニア州など非政府組織で作られた「We are still in」(私たちはパリ協定にとどまる)には、自治体やその首長、大学、研究機関、企業など1500社・団体が署名する。米国の再生可能エネルギー市場そのものに変化はなく、企業もかつてないほど市場にコミットしている。


 つまり、米国では、政治よりも市場が先を進んでいる状況にある。


 トランプ氏自身は、再生可能エネルギーについて、ビジネスとしての可能性や成長性をまだ十分に理解していない気がする。今は他の関心事が多すぎるようだ。当センターも、まずは彼を教育する必要があるかもしれない。


 日本だって悲観する必要はない。再生可能エネルギーの導入に向けたポテンシャルは、米国よりもむしろ日本のほうが高いと思っている。


 日本では長年、産業界と電力会社が経済成長に向け協力関係を築いてきた。また、今は導入が遅れているといっても、その分、再生可能エネルギーの導入先進国がこれまでに直面した課題や誤りを「他山の石」に用いることができる。


 ただし、日本には、米国の一部の地域と同様に、今なお地域内の市場を独占する電力会社が存在する。我々は、米国ではこうした電力会社と電気の買い手である一般の企業やNGO(非政府組織)とが対話の機会を持つよう働きかけてきた。


 電力会社も、当初はかたくなな態度を崩さなかった。しかし対話を行ううち、電力会社も、再生可能エネルギーを提供することの重要性に気づくようになった。


 日本でも今後、再生可能エネルギーの普及を広げるためには、やはり一般の企業と既存の大手電力会社のオープンな対話が必要だ。


 産業界と電力業界は、これからも良好な関係を維持していきたいと考えているはずだ。このため企業の行動が変われば、電力会社に与えるインパクトは大きい。


 対話にはNGOや投資家が加わることが望ましい。一般の企業と規制当局の対話も必要だろう。一般の企業や電力会社、規制当局の間で築く共通認識が、これからのエネルギー市場を形づくることになるためだ。

 

 ◇電力の買い手側も努力を

 

 ただ、再生可能エネルギーがいくら気候変動対策に有効であるといっても、やみくもに導入を広げるのはよくない。


 再生可能エネルギーを導入する際にも、多かれ少なかれ、他の電源と同じように資源が必要になるためだ。いずれかの電源に使用が偏れば、それだけ必要な資源を使いすぎてしまうことになる。


 そのため我々は、それぞれの電源で作った電力が、バランスよく使われるような制度設計を心がけている。その意味で、ベストな制度は「デジタル化」によって、いかに柔軟でスマートな使い方ができるかが鍵になる。そのためには、非常に大規模なスマートグリッドが必要だ。


 再生可能エネルギーの普及拡大には、需要側の努力も必要だ。そのためにも、一般の企業と電力会社の対話が求められている。


(リリー・ドンジ、米ロッキー・マウンテン研究所)


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