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特集:最強!ニッポンの素材・化学2018年6月5日号

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好業績、上方修正相次ぐ

すり合わせで技術磨き上げ

 

日本の素材・化学メーカーが今、絶好調だ。


  信越化学工業が4月27日に発表した2018年3月期連結最終利益は、前期比51%増の2662億円と10年ぶりに過去最高益を更新した。営業利益ベースで、主力の「塩ビ・化成品セグメント」が前年度比75%増、「半導体シリコンセグメント」が同66%増だった。同社は、窓枠や上下水管、建物外壁など、さまざまなインフラの原料となる塩化ビニール、半導体デバイスの材料であるシリコンウエハーでいずれも世界シェアトップだ。

 昭和電工は5月9日、18年1~6月期の業績予想を上方修正し、連結の営業利益予想を410億円から680億円へと引き上げた。同社は、製鉄の電気炉で鉄スクラップを溶かすための「黒鉛電極」で世界シェアトップ。その黒鉛電極を管轄する「無機セグメント」の営業利益を従来予想の270億円から505億円に引き上げたことが大きい。このペースでいけば、過去最高を予想する18年12月期の通期業績は、さらなる上乗せも視野に入る。


  黒鉛電極で世界有数のシェアを誇る東海カーボンは、株価上昇が目を引く。電炉向けの需要の高まりを受け、5月8日に18年1~6月期の営業利益が65%上ぶれるとの業績修正を発表すると、株価は翌日、前日終値比で一時14%上昇した。さらに14日、韓国の持ち分法適用会社「韓国東海カーボン」の出資比率を35%から44%に引き上げることを発表すると、その後も株価は上昇を続けた。韓国東海カーボンは、半導体装置部材メーカーで、黒鉛電極以外への成長投資が市場に評価された形だ。東海カーボン株価の5月23日終値は1903円。わずか1カ月ほど前に付けた年初来安値(4月13日、1295円)から46%も上昇したことになる。


  資生堂が発表した18年1~3月期連結決算も、市場関係者を驚かせた。化粧品の売り上げが好調で、1~3月期の営業利益は前年同期比ほぼ倍増となる471億円。18年12月期通期の営業利益予想は900億円のため、年間の営業利益の半分以上をわずか3カ月間で稼ぎ上げたことになる。


  素材・化学の範囲は幅広い。代表的なものだけでも、プラスチック樹脂、特定機能を持つ化学物質、化粧品、人工繊維、フィルム、ガスなどに及ぶ。多くは消費者には直接届かず、センサー、ディスプレーなどの電子部品や自動車車体の材料、半導体製造工程で使われる薬品やガスなどとして使われる。BtoB(法人対法人)のビジネスモデルで、「縁の下の力持ち」「黒衣」の色合いが強い業種だ。

◇世界トップ企業多く

 

 日本には、素材・化学で世界有数のシェアを誇るメーカーが多い。信越化学は前述のようにシリコンウエハーでトップだが、2位にはSUMCOが位置しており、日本の2強が世界市場の6割を占めている。電気自動車(EV)普及で需要拡大が見込まれるリチウムイオン電池材料では、負極材で日立化成が、正負極を絶縁するセパレーターで旭化成がそれぞれ世界シェアトップだ。


  また、東レが世界シェアトップを誇る炭素繊維は、航空機や自動車の車体を軽量化する役割を担っている。半導体では、HOYAが回路基板形成に不可欠の「マスクブランクス」で世界シェアトップだ。
  なぜ、日本の素材メーカーはここまで強いのだろうか。キーワードは、納入先メーカーとの「すり合わせ」だ。


  高度成長期、日本の電機・自動車メーカーが躍進する過程で、素材メーカーと二人三脚で研究開発に取り組んできた。最終製品に最適な材料を開発して量産化にまでこぎつける「すり合わせ」は日本の素材メーカーの技術力の源泉とも言える。00年代に入り、日本の電機メーカーは、中国、韓国、台湾勢などへの技術移転も災いとなって、新興国勢に追い抜かれた。しかし、すり合わせ力を持っている日本の素材・化学メーカーは一日の長がある。


  例えば、シリコンウエハーでは、納入先が韓国サムスン電子なのか、米インテル向けなのか、東芝メモリ向けなのか、また製造するのがメモリー半導体なのか、ロジック半導体なのかでサイズ、硬さ、物性は異なっている。これを、顧客の求める量を、期限内に納入することが必要だ。SUMCOは900種類のウエハーを製造していると言われる。信越化学やSUMCOが世界2強に君臨するのも、細やかな顧客対応能力があってこそだ。


  黒鉛電極世界シェアトップの昭和電工も同様だ。黒鉛電極が使われる電炉は、一つ一つ形が違う。同社の高橋秀仁・カーボン事業部長は自社の技術レベルの高さとともに「電炉それぞれに合わせた作り込み」も強さの理由に挙げる。


  一方、すり合わせ以前に、技術そのものの質の高さもある。東海カーボンと並び、5月の東京市場で株価上昇を演じた資生堂は、「エリクシール 美容濃密リンクルクリーム」が好調だ。この化粧品は、有効成分「レチノール」を配合し「シワを改善する」とうたう医薬部外品だ。医薬部外品は、一定の機能が証明できたものに限り厚生労働省が承認するもので、化粧品より効果・機能が高い。同社の技術が凝縮された商品だ。

Bloomberg
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 ◇後発企業の追い上げも

 

 素材・化学メーカーの経営には、懸案材料もある。短期的には材料高直撃がリスクだ。プラスチックや合成繊維の原料は、原油から作られるナフサだ。ナフサは原油価格と連動しており(30ページ参照)、原油価格上昇→ナフサ上昇→素材原料上昇につながる。その原油価格は、5月に入り、米国産標準油種(WTI)先物価格が一時、1バレル=80ドルに達した。素材メーカーの危機感は強く、東レの福田雄二・財務経理部門長は18年3月期の決算会見で「原油価格の上昇がリスク要因にはなりうる」と述べた。


  中長期的には、新興国の後発メーカーの追い上げも懸念される。業界関係者によると、日本メーカーの液晶用カラーフィルターのシェアは00年代半ばは100%近かったものの、10年代半ばには大型パネル用での落ち込みが激しく10%以下に低下した。


  ニッセイ基礎研究所の百嶋徹上席研究員は「技術難易度が相対的に低い素材は、デバイスメーカーによる内製化や後発メーカーの追い上げでシェアを奪われやすい」と指摘した上で「半導体用フォトレジスト(感光剤)やリチウムイオン電池用セパレーターなど、高度な技術を要する素材では、日本勢がシェアを握り続けている。経営陣は、高度な技術レベルを保つために、研究段階では産学官挙げての体制を敷き、量産段階では設備投資を十分に投下するべきだ」と話す。


  日本の素材・化学メーカーが、投資を惜しまず、研究開発に打ち込めば、競争力はまだまだ向上しそうだ。
 (種市房子・編集部)
 (下桐実雅子・編集部)

週刊エコノミスト 2018年6月5日号

定価:670円

発売日:5月28日



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