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第33回 福島後の未来をつくる:エイモリー・B・ロビンス ロッキーマウンテン研究所共同創設者・チーフサイエンティスト 2016年4月26日号

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 ◇エイモリー・B・ロビンス

1947年米国ワシントンDC生まれ。物理学者。米ハーバード大学などで学び、英オックスフォード大学では特別研究員も務める。2009年にはタイム誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」、またフォーリン・ポリシー誌が選ぶ「世界の頭脳100人」に選ばれる。

 ◇日本もできる「新しい火の創造」

 ◇米中では数百兆円の経済効果試算

 

 東京電力福島第1原子力発電所事故から5年たった。日本では国内の原発がすべて停止しても、省エネルギーの改善と再生可能エネルギーの普及拡大などにより不足の電力を埋め合わせることができた。

 海外をみると、ドイツは福島原発事故後に8基の原発を即時停止して、停止した分の電力を再生エネだけで賄い、さらに電力輸出も行っている。日本の福島原発事故の教訓は、原発がなくても電力は足りると分かったことだ。そして今後の5年間で、省エネ効率のさらなる改善や再生エネ導入を加速させることで、日本の原発再稼働は必要ないことを明確にしなければならない。原発を再稼働しても経済的にも社会的な採算性に合わないことが明らかとなるのだ。実際に欧米では原発の不採算性が証明されている。


 もう一つの教訓として、日本の産業界は、太陽光発電について、太陽電池モジュールをはじめとした関連製品を、非常に短期間で、低コストに製造・販売・施工できることを示した。2015年の日本の太陽光発電導入量は中国に次いで世界2位だ。日本の風力発電も何の制約もなければ同様の能力がある。

 つまり日本で再生エネによるエネルギー供給構造の大変革を実現するには、どれだけ公正な政策を実施できるかにかかっている。

 経済産業省の中でも、大手電力会社の影響下におかれて昔ながらの電力システムを維持しようとする勢力と、改革を促し分散型・再生エネの拡大を掲げる勢力に分かれて闘争中だ。どちらの勢力が勝利するのか興味深い。後者が勝てば、日本で進められている電力市場の自由化や発電と送配電部門の分離など、電力システム改革は表面的ではなく本当に実現できる。電力産業の大変革が起き、その変革の時流に乗れない既存電力会社は、欧州の電力会社のように生き残っていけない。

 そもそも既存電力会社の利権を守ることは、イノベーション(革新)の芽を摘むという弊害を生み出す。

 ◇中国は原発の9倍を投資

 

 私は「新しい火の創造」という概念を提唱した。世界のエネルギーの5分の4は依然として太古の化石を燃やし続けている。古い火から新しい火に変わるということは、石油と電気という二つの大きなエネルギーを変革することにある。新しい火とはエネルギーを利用する運輸、建物、工業、電力の四つの分野の効率化を進めるとともに、分散型の再生エネに切り替えて電力産業全体を転換させることだ。発電設備の大規模集中型と送電系統網で構成する電力システムから、分散型の再生エネと地域ごとのマイクログリッドへの再編である。電力系統の中の小規模発送電網であるマイクログリッドは、平常時は大きな系統と調和的に連携して作動し、上位系統が故障した場合などの非常時には地域独立的に稼働する。私たちは、安全・安心かつ持続可能な新しい火を必要としている。

 米国で10年から50年までにエネルギー利用の効率化と再生エネ導入という「新しい火」を創造できれば3・7兆ドル(約400兆円)を節約できるとの試算がでている。これは二酸化炭素の排出費用や、そのほかの隠れたコストをゼロに見積もった場合であり、実際の経済効果はさらに大きいだろう。石油も石炭も原発も使わずに、新しい連邦法の導入も必要なく、補助金もいらない。そして米国は、実際に新しい火の創造の軌道へ乗り始めている。

 中国でも新しい火の創造を実現できれば10年から50年までに22兆元(約380兆円)の節約効果がでると試算されている。これは中国政府関係者と54人の研究者が協力して2年半かけて詳細に分析した結果だ。

 中国は新しい火によりエネルギーの生産性が7倍に向上し、電源の82%が非化石燃料になるという。そうなると発電用の石炭は15年比で9割減となる。しかも中国では原発の導入は経済的に見合わなくなってきていると判断しており、50年における電源82%の非化石のうち、原発の割合は極力少なくなる。

 実際、中国政府は14年の再生エネ投資に原発の9倍の金額を計上している。中国の再生エネ導入量の計画は30年に累計1000ギガワットを達成し、さらに50年には2000ギガワットを掲げている。1000ギガワットとは米国のすべての送電系統網の受け入れ容量に匹敵する数値だ。中国は今後14年間で目標を達成するために、急ピッチで導入を進めている。中国は15年の1年間で、風力30ギガワット、太陽光と水力を各15ギガワット導入した。

 欧米は電源構成の100%を再生エネにすべく、かじ取りを進めている。それに対して日本の再生エネ導入の見通しは30年に22~24%にとどまる。実は日本の再生エネ導入潜在量は、先進工業国の中ではもっとも多様かつ豊富である。太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの1ヘクタール当たりの日本の再生エネ導入潜在量はドイツの9倍ある。にもかかわらず、日本の導入量はドイツと比べて1人当たり9分の1にとどまっている。

 なぜそのような状況が続いているかというと、日本は先進工業国の中で唯一、電力会社の独占体制が維持されているからだ。発電設備や送電系統網など長年築き上げた資産をもっている電力会社にとって、分散型の再生エネは大きな脅威だ。だからこそ、日本では環境アセスメントや電力会社による送電系統網への接続拒否など、さまざまな手段が用いられて風力などの導入が進んでいない。

 ドイツなどの欧州では独立系の系統運用事業者が存在するので、再生エネ電気の接続拒否はできない仕組みだ。そのことでドイツは、再生エネ産業が新興し、卸電力料金が下がり、経済が活性化し、既存電力会社の弱体化が起きている。

 

 ◇草の根で広がる脱電力

 

 欧米では消費者側からエネルギーに対する意識改革が浸透している。例えば米国ハワイ州では電力会社の電気料金が高騰しているため、送電系統網に接続しない家庭が増えている。太陽光発電と蓄電池、さらに時間帯に応じて消費電力を制御できるスマート家電を組み合わせることで、自家発電・自家消費の生活を送っている。ハワイでは全住民の8分の1が自宅屋根に太陽光発電を設置しているという。

 電力会社の支配力が強まりすぎると消費者は不快に思い、脱電力会社を進める。価格支配力は電力会社ではなく家庭にある。つまり、電力会社は多くの脅威にさらされている。

 また、欧州には、個人でバイオマス発電や風力発電を手がけている人から、家庭で使用する電気を調達できるウェブサイトがある。音楽のインターネット販売サイトのように再生エネ由来の電気を誰もが気軽に家庭で利用できるのだ。

 このように全世界の国民一人一人が、環境保全の観点から再生エネ電気を重視する、もしくは少しでも安い電気料金の小売企業を選ぶなどの電気に対する意識が変わっていけば、新しい火の創造を実現できる。

 既存の大手電力会社が今後も生き残っていくには、化石燃料による従来の大規模な火力発電や原発を建設して電気を売るというビジネスモデルから、エネルギー利用の効率化や再生エネを組み合わせたコンパクトな送電系統網を運用する方向へ転換せざるを得ない。

 今後の電力分野への投資は、発電所建設などにより電力の供給力を増やすのではなく、節電を目的とした投資にすれば、設備投資額を大幅に抑えることができ、かつ投資回収も早くすむ。回収した資金は節電設備の再投資へまわせるという好循環が生まれる。(了)


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