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特集:固定資産税を取り戻せ! 2016年6月7日号

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◇複雑怪奇な固定資産税

◇納税者も気づかずミス長期化

 

桐山友一/種市房子

(編集部)

 

 今年もそろそろ、固定資産税の納税通知書が届く時期が来た。土地や建物などの固定資産を持つ人や会社にとっては毎年のこと。しかし、その税額は本当に「正しい」ですか──。

 固定資産税は市町村(東京23区は東京都)が課税するが、今年も各地でミスが相次いでいる。札幌市は今年3月、固定資産税の課税ミスが37件、合計で4571万円を過大徴収していたと発表。最大では689万円を徴収しすぎていたケースがあり、医療機関との併用住宅で1976年度以降、40年近くにわたってミスが続いていた。同市の包括外部監査をきっかけに徴収ミスが判明し、市の全データを照合して他に同様の誤りがないか調べたという。

 また、茨城県河内町でも3月、2005年度以降の11年間にわたって808人から6758万円を過大徴収していたと発表。秋田県三種町では2月、グループホームやアパートなど共同住宅18件で96年度以降、20年間に729万円を過大徴収していたことが分かった。こうしたミスの多くは、「住宅用地の特例措置」を適用していなかったことが要因だ。人が居住する住宅用地なら大幅に税負担が軽減されるが、「担当者の理解不足」(河内町)などで見過ごされたままになっていた。

 徴収ミスは納税者の人生も大きく狂わせる。埼玉県新座市では14年6月、当時60代の夫婦が住んでいた住宅の固定資産税で、86年度から27年間、住宅用地の特例措置を適用せずに過大徴収していたことが判明した。しかし、判明したのは夫婦の自宅が差し押さえられ、公売に掛けられた後。滞納していた税額や延滞金約800万円を夫婦が納められなかったからだ。住宅を落札した不動産業者からの指摘でミスが分かったというが、もはや後の祭りでしかない。

 

◇ブラックボックス化

 

 固定資産税は納税者が申告するのではなく、市町村が土地や家屋の評価額を決め、納税者に税額を通知する「賦課(ふか)課税方式」の税だ。だが、税額などに誤りがあった場合、今回の札幌市のように全期間にわたって還付する例もあるものの、一般的に還付されるのは地方税法で請求権がある過去5年分のみ。財産コンサルティング会社、青山財産ネットワークスの高田吉孝氏は「固定資産税は納税者自身が誤りに気づかない限り徴収ミスが長期化し、税を納めすぎても返ってこない怖さがある」と指摘する。

 毎年のように続く固定資産税の徴収ミスだが、氷山の一角の可能性が高い。判明したのはあくまで“気づいたミス”で、誰も気づかないまま税を払い続けるケースも相当あると見られる。市町村が固定資産税の税額を算出する過程では、いくつもの複雑な計算を経なければならず、計算ミスが生じる余地は十分にある。また、土地や家屋の価値(固定資産税評価額)を評価する際は、市町村の担当者の裁量も影響するが、それらが誤っていないとも限らない。

 住宅用地の特例措置の適用ミスは税額への影響が大きいために公表されたが、そもそも全国でどの程度、ミスがあるのかを知るのは困難だ。全国的な定期調査はないうえ、東京都でも固定資産税のミスや還付の統計は取っていないなど、自治体単位ですら判然としない。「ミスをどう定義するかが難しい。課税後に納税者から(土地の用途など)事実関係が変わったという申告を受けて還付する、ミスとは呼べない例もある」(東京都資産税部)と説明するが、納税者には課税の実態があまりに見えにくい。いわば「ブラックボックス」のような存在になっているのだ。

評価をめぐって争う空き地(東京都大田区)
評価をめぐって争う空き地(東京都大田区)

 

◇音を上げる自治体

 

 さらに、固定資産税はその仕組みがあまりに複雑なため、納税者が誤りに気づくのは至難の業だ。

 東京都大田区の住宅街。道路から脇道をたどって奥へ約20メートル入ると、周囲を住宅などに囲まれた約200平方メートルの空き地がぽっかりと現れた(写真)。脇道と空き地は柵で隔てられ、自由に行き来はできない。脇道と空き地の所有者も別だ。この空き地をめぐって、東京都は「私道に接する宅地」と評価。固定資産税評価額に基づく課税標準額(税額算出の基となる金額)を約1300万円とし、昨年2月にこの土地を取得した不動産開発業者に、課税標準額を基に不動産取得税約40万円を課した。

 しかし、不動産開発業者は納得がいかない。この土地は接する道路のない「無道路地」と解釈。無道路地として評価すれば課税標準額は約300万円、不動産取得税は約9万円になると考え、都に対して異議を申し立てた。課税標準額の違いは毎年の固定資産税額にも影響し、都の評価に基づけば固定資産税額は約18万円だが、不動産開発業者の主張なら約4万円と大きな差になる。こうした土地の評価方法などを理解しなければ、争うこともできない。

 複雑な固定資産の評価方法に、自治体側も音を上げ始めた。東京都は4月21日、建築や不動産評価の専門家らをメンバーとする「固定資産評価に関する検討会」を発足。床面積10万平方メートル以上の大規模な複合施設について、建物(家屋)をより簡易に評価する方法がないか、見直す検討を始めた。固定資産の評価方法は全国一律で決まっており、都に評価方法を見直す権限はない。それでも、今年度中には具体的な見直し方法をとりまとめ、国に評価方法の見直しを提言する方針だ。

 

◇税額見直すREIT

 

 現在の建物の評価方法は、購入時の価格や建築工事費ではない。構造や材質、使用量などを基に細かく積算する「再建築価格方式」で、それもオフィスや商業施設、ホールといった用途ごとに細かく評価の仕方が異なっている。しかし、こうした大規模物件では、「資材の数が数万点に及び、都が固定資産税評価額を決めるまで2年近くもかかることがある」(東京都の小林清・主税局長)。見直しが実現すれば、64年度に再建築価格方式を採用して以降、実に半世紀ぶりの転換になる。

 自治体すら音を上げる評価方法に、納税者側が容易に納得するはずもない。オフィスビルや物流倉庫など大規模な不動産を保有するREIT(不動産投資信託)は今、保有物件の固定資産税額の見直しを積極的に進めている。REITの投資家から、保有資産の価値や収益性を厳しく評価されるためだ。建物の材質などを評価額の根拠と照らし合わせ、評価額が正しいかどうかを検証。保有物件の評価額に誤りがあれば、納めすぎた税金が還付されるうえ、毎年の固定資産税額も大きく変わりうる。

 各REITの決算資料によれば、日本ビルファンド投資法人が13年6月期に約2億円、ジャパンリアルエステイト投資法人は15年3月期に約2000万円の還付を受けている。

 また、パナソニックや大手私鉄などの事業会社にも固定資産税を見直す動きが広がっているが、ある私鉄は「自治体と表立って対立したくない」と取材には及び腰。メーカーや私鉄は数多くの土地・建物を保有するが、自治体と対立すれば「保有物件をすべて厳しく評価されるのでは」という懸念も付きまとう。

 

 

◇税収「安定」のワケ

 

 固定資産税は市町村税収の4割超を占める重要な財源だ(図1)。景気変動の影響を受けやすい市町村民税に比べて税収が安定しているのが特徴で、ここ20年ほどは9兆円前後で推移する(図2)。

 地方税法上は固定資産の「適正な時価」に対して税率を掛ける建前で、固定資産税の標準的な税率1・4%は約60年間も変わらない。地価が下落する中でも土地からの固定資産税収は3・5兆円前後で不変だったりするのは、税収を安定させる調整や補正などがさまざまに絡み合っているからだ。

 固定資産税を課税する市町村ですら、理解が難しいほど複雑怪奇化した固定資産税。納税者自身が厳しくチェックしなければ、誤った税額がこのままずっと続きかねない。(了)


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