◇ スマホの利用データ分析から「世界の頭脳」へ
スマートフォンのアプリなどの利用データを分析し、ターゲティング広告(利用者の関心に合わせた広告)配信のコンサルティングを手がける。また、2014年からはインターネット決済を簡易にするサービス「SPIKE」も始めた。15年8月期の連結売上高は前期比82%増の41億円で、16年8月期の見通しは売上高90億円と、急成長している。
── 07年の創業当初のビジネスモデルはどんなものですか。
佐藤 ガラケー(従来型の携帯電話)向けの検索エンジン上で何かを検索した時、上位に顧客のウェブサイトを表示できるようにすることをやっていました。いわゆるSEO(検索エンジン最適化)ですね。ただ、創業期はいろいろなビジネスモデルをつくりましたが、苦戦しました。例えば、今でいうフェイスブックのタイムラインのようなものをつくりましたが、収益事業化するのが難しくて売却しました。将来的にはガラケーがなくなるだろうという読みがあったので、SEO事業を全部売却し、11年からスマートフォン向けの今の事業をシンガポールで始めました。
── なぜシンガポールで今の事業を始めたのですか。
佐藤 シンガポールでは約8割の人にスマホが普及していたので、テストマーケティングをしようと思いました。日本の市場は小さいので、世界中でビジネスをしない限りはスケールの大きい仕事はできない。ちょうどスマホが普及してきたので、スマホでビジネスができれば、世界中でクロスボーダーの取引を受けられると考えました。
── 現在の拠点は。
佐藤 今は8拠点あります。日本、シンガポール、香港、台湾、中国、米国、イギリス、韓国。中国が一番売り上げが大きくて、次は韓国。中国の市場規模は日本の約10倍で圧倒的に多い。売上高の6割は海外です。スマホはボタン一つで世界中の端末にコンテンツを配れる仕組みなので、いろいろな国に広告を配信したいという需要があります。
── 今のような体制が整ったのはいつごろですか。
佐藤 15年まで4年かけてつくりました。海外の拠点では現地の人しか働いていません。もちろんトップも現地の人なので、採用してもうまくいくのは、半分くらい。8拠点つくったら4拠点はうまくいかないので、そこはもう1回トップを代えてということを繰り返していくと、最終的にはうまくいくんです。
◇大学を中退して起業
── 創業するきっかけは。
佐藤 大学に入学したのが06年ですが、すぐに中退しました。母子家庭で裕福ではなかったので、学費に使えるお金は150万円しかありませんでした。元々法律家になろうと思って大学に入りましたが、法科大学院ができて、6年間も勉強するのは微妙だなと思い、それだったら、その資金を使って事業を始めた方がいいと考えるようになりました。
── こういう事業をしたいというイメージはありましたか。
佐藤 具体的なイメージはなかったですね。ただ、インターネットくらいしか若者ができる事業はないと思い、そこからコンピューターのことを学びました。それまではパソコンを触ったことがなく、メールを送ったこともありませんでした。ただ、高校時代に自分で服をデザインして売るという事業をやっていたので、結構自信がありました。
── 創業当初はどんな苦労がありましたか。
佐藤 当時は20代前半だったので、自分より年上の人間を採用して組織をつくらなければいけないというのは、苦痛でした。ベンチャー企業で若者がやっている会社に来てくれる人はめったにいなくて、来てくれれば御の字でした。それでも11年には従業員が40人くらいになり、今は世界中で100人以上います。
── 簡単なことのように話していますが、あまり苦労とは感じないのですか。
佐藤 ストレスが好きなのかもしれません。100%自分の力を使い切っている状態が好きで、楽なことがすごく嫌いなんです。
── 今後のビジネスプランは。
佐藤 「世界の頭脳へ」というビジョンを掲げているので、世の中の情報をほとんどリアルタイムで握っているような状態でありたい。ビッグデータとか人工知能と言われるデータ領域が絡むところは今後、すべてビジネスになると思っています。
── フィンテック(金融とITを融合した新たな金融サービス)、IoT(モノのインターネット)などはどんと来いということですか。
佐藤 むしろ私たちの時代だなと思っています。今までは家電製品などがインターネットにつながっていなかったので、情報を取れませんでしたが、今後ネットにつながっていくと、実際どういうふうに利用されているのかがすべて可視化できるようになります。
── 短期的に着手しようとしている事業はありますか。
佐藤 まずはフィンテックですね。元々決済をやっているので、このデータを活用して、新しい融資、投資、保険などのビジネスを生み出していきたいです。
── これから起業する若い人にメッセージをお願いします。
佐藤 日本だと経済の規模も小さいし、物もサービスもあり余っているので、隙す きま間が少ない。むしろ、成長が見込める国の方が圧倒的にやりやすいと思いますね。
Interviewer 金山隆一・本誌編集長 構成 松本 惇・編集部
■横 顔
Q 20代前半はどんな日々を過ごしていましたか
A どぶ板営業ですね。企画、開発、営業を1人でやっていました。起業してから2年間は修業でした。
Q 最近買ったもの
A 米ガーミン社の時計「アプローチ」です。
Q 休日の過ごし方
A 大体会社にいて、仕事のことを考えています。考えているのが好きなんです。
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■人物略歴
さとう かつあき
福島県出身。2005年福島高校卒業。06年に早稲田大学法学部に入学するも中退し、07年にイーファクターを設立。11年にメタップスに改称し、シンガポールや中国など海外にも拠点を拡大。15年8月に東証マザーズに上場。29歳。