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【がんは薬で治る】インタビュー 国民皆保険は 国頭英夫 2016年7月19日号

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国頭英夫・日本赤十字社医療センター化学療法科部長

◇75歳以上は延命治療を控えるべき

 

 オプジーボは「年間1兆7500億円」との試算は、国民への問題提起だ。国頭英夫・日本赤十字社医療センター化学療法科部長に真意を聞いた。 (聞き手=酒井雅浩・編集部)

 

 問題の根源は医学の進歩(医療の高度化)と、人口の高齢化にある。過去20~30年使われてきた通常の抗がん剤は、完遂して数十万円。分子標的薬は年間数百万円。それが免疫療法は年間数千万円だ。高齢者はがんに限らず病気が多く、医療費もかさむ。制度を支える働く世代は減る。財政破綻は、当然の論理の帰結だ。少なくとも日本では、薬価が高くなるのは製薬会社が暴利をむさぼるためではない。値段を下げれば解決するというような問題でもない。誰も悪くないのに、自分に被害が及ぶということを理解してもらいたい。

 我々がすべきことの第一は、効果、副作用が同じなのに、「新薬」という理由だけで高い薬を使うのをやめることだ。市場の原理なら、効果が同じで値段が倍のものを誰も買わない。しかしこんな簡単なことにすらコンセンサスが得られない。薬は、高額療養費制度もあり、患者の負担は変わらないから「新しいものを使ってみよう」と安易に使われている。医者にも、患者にも「新しいものはいい」という思い込みがある。

 こんなレベルの話をしなければならない中で、いくらかかるかわからないが、いい薬が開発された。みな争って使うのは必然で、破綻しないはずがない。

 今は、氷山を前にして右に避けるのか左に逃げるのか、急ブレーキをかけるのか、そもそもそこに氷山があるのか、という議論をしている状況だ。この危機感のなさは異様である。まず急ブレーキをかけて、その間に救命ボートに誰を乗せるかを考えなければならない。私は当然、次世代を優先的に避難させるべきだと思う。

 75歳で延命治療を中止するというのは大胆な意見だと言われる。大胆にも何も、私は氷山を見つけて「危ない!」と反射的に叫んでいるだけだ。私には年齢で区切る以上の方法は思いつかない。他に破綻を回避する良策があるなら聞かせてほしい。

 負担できない人は高度医療を受けられないという米国方式は、結果的に貧しい層を切り捨てる。医療費を国庫負担でまかなう英国では、一定以上の医療は保険適用されず、大多数の国民が平等にあきらめようという制度だ。

 

◇他に良策はあるか

 

 それなら、私は年齢で区切るのが公平だと思う。そして今、何もしない、誰も切らないということは、とりもなおさず次世代を切り捨てるという選別をするのと同じだ。

 オプジーボは画期的な薬と言える。効く患者は治るかもしれない。そういう薬があるのに、使わないという選択肢はないだろう。もちろん私も患者に投与している。多くの医者も、薬価や次の世代のことを気にしながらも、投与はしていることだろう。私はこういう発言をして個人的に得になることはひとつもない。ここで沈黙して、財政が破綻した後で「そらみたことか」と言えばいいだけ。しかしそれでは、次の世代に対して申し開きがつかない。

 憲法25条が権利として保障する「最低限度の生活」には、75歳になって年間3500万円の薬を使うことまで想定されていたのだろうか。人間はどこまで生きる権利、もしくは義務があるのか、何のために生きるのか。それを我々は考えておくべきだった。「金」に追われて考えさせられている現状は、非常に残念だ。

 日本の国民皆保険制度は、非常によくできたシステムだ。今のまま破綻しないで続くのであれば、それほど幸せなことはない。何かを変えると、誰かが負担や不利益を被る。それを直視できないから、みんな気づかないふりをして、議論を避けているだけだ。

 医療の進展はがんの世界だけではない。がんは肺がんだけではない。オプジーボのような薬は、今後も次々と出るはずだ。もっと有効で、もっと高価なものが登場する。このままでは、破滅は目に見えているではないか。

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この記事の掲載号

定価:620円(税込)

発売日:2016年7月11日

週刊エコノミスト 2016年7月19日号

 

特集:がんは薬で治る

 

がん免疫療法薬ブーム第二幕

難治性の乳がんに光明

高額薬品が壊す国民皆保険

 インタビュー  本庶 佑 / 国頭  英夫

 

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