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ワシントンDC 2016年7月19日号

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米国社会の価値観が変化している Bloomberg
米国社会の価値観が変化している Bloomberg

◇増える親と若者の同居

 

三輪裕範(伊藤忠インターナショナル会社

                                      ワシントン事務所長)

 

 西部開拓時代よりアメリカ社会は、若者に対して一日も早く独立し自立することを求めてきた。そのため、大学を卒業して社会人になれば、できるだけ早く実家を出て、結婚するなり一人暮らしするなりして、自分が稼いだお金で親から独立した生活を始めるというのが、一般的な行動様式だった。

 しかしながら、若者の行動様式にも、近年大きな変化が見られるようになってきた。最近、ピュー・リサーチ・センターが発表したリポートによると、18~34歳までの若者は、親と同居している割合が2014年には32・1%に達したという。このリポートでは、独居、配偶者との同居、友人との同居など、その他すべての居住パターンのどれよりも多いことも分かった。アメリカの若者の約3人に1人が親と同居しているということであり、これは今まで私たちがアメリカの若者に対して抱いてきた印象と随分違っている。

 以前はこんな状態ではなく、親と同居する若者の割合が最も少なかった1960年には20%と、5人に1人だった。その一方で、配偶者あるいは恋人等と同居する若者の割合は62%と、非常に高率であった。しかし、2014年には、その割合も31・6%と、1960年のほぼ半分にまで下がっている。

 では一体なぜ、アメリカの若者はこれほど多く親と同居するようになったのだろうか。その理由の一つは、アメリカの若者の価値観、特に結婚に対する価値観の変化である。前記ピュー・リサーチ・センターのリポートを書いたリチャード・フライによると、「昔のアメリカの若者が熱心であったのは、良いパートナーを見つけて新しく家庭を築き、何人か子供を持つことだった」が、そうしたことよりも、「今の若者がもっと熱心なのは自分の勉強や仕事に力を入れること」だとしている。

 たしかに、アメリカ人の初婚年齢は、男女共に上がり続けている。1956年には初婚年齢として最も多かったのは男性が22歳、女性が20歳だった。だが、2014年にはそれが男性29歳、女性27歳と、男女とも7歳上がっているのだ。

 しかし、こうした価値観の変化以上に大きな影響を与えたのは、経済環境の変化である。親との同居が今よりもずっと少なかった1960年というのは、アメリカがまだまだ経済的な繁栄を謳歌(おうか)していた右肩上がりの時代であり、就職や昇給もそれほど困難ではなかった。

 ところが、現在では、生活費は高騰する一方、希望するような就職機会は非常に限られている。また、ようやく就職できたとしても、賃金は容易に伸びない。特に大学を卒業したばかりのころは、まだまだ多額の学生ローンを残している場合も多く、給料だけでは生活するのに精いっぱいで、学生ローンの返済もままならない。そうした近年のアメリカの経済状況を考えれば、若者が結婚する時期を先伸ばしし、親との同居を選ぶのも一つの合理的な選択であると言えるだろう。

 

◇親子親密化も一因

 

 また、親との同居が増えた背景には、親子関係の親密化という要素もある。18~29歳の若者の親に対して行った2013年の調査では、子供が親と同居することに好意的であったのは61%にも上った一方、否定的だったのはわずかに6%にすぎなかった。むしろ親自身が子供との同居を望むようになっているのだ。

 親との同居が当たり前のように受け入れられ始めた今のアメリカ。子供が「親離れ」しなくなっただけでなく、親も「子離れ」しなくなったとすれば、アメリカの将来にあまり明るい希望は持ちにくい。

この記事の掲載号

定価:620円(税込)

発売日:2016年7月11日

週刊エコノミスト 2016年7月19日号

 

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