◇世界最悪の財政は大丈夫か
白川浩道
(クレディ・スイス証券チーフ・エコノミスト)
日本の一般政府(国、地方政府、社会保障基金の合計)の債務残高(粗債務残高)は、今や1200兆円を上回り、国内総生産(GDP)比で約250%に達している。国際通貨基金(IMF)のデータによれば、世界185カ国の中で最大である(2位はギリシャの178%〈2015年〉)。一般政府が保有する金融資産を差し引いた純債務残高のGDP比で見ても、日本の順位は大きく下がらない。データがある93カ国中、日本は、財政破綻したギリシャ(177%)、レバノン(131%)についで3位(128%)だ。
少子・高齢化、人口減の逆風は財政赤字の削減を困難化させ、政府債務の膨張をもたらすが、その結果、多くの国民は将来の税負担の拡大を予想することになる。これが消費を抑制すれば、経済はデフレ的状況から一層抜け出しにくくなり、デフレと政府債務膨張のスパイラルが発生する。
その帰結は財政破綻であり、国債市場の動揺、急激な経済縮小、社会情勢の不安定化などが起こる。従って財政当局には、一般政府債務GDP比率が一方的に(発散的に)増加しない、あるいは、同比率が現状水準に収束する、という意味での“維持可能な財政運営”にコミットすることが求められる。
◇計算上の問題点と改善点
政府の財政がどの程度維持可能であるのか、すなわち、財政の維持可能性がどの程度担保されているのかを測る一般的なアプローチは、一般政府債務GDP比率の一方的な上昇を回避するために必要な増税規模を逆算し、現実との乖離(かいり)を見るというものだ。
例えば、「250%という一般政府債務GDP比率を数十年後でも維持するためには、消費税率を30%まで引き上げる必要がある」とのシミュレーションが得られれば、実際の消費税率が8%に過ぎないことと比較し、“日本の財政維持可能性は極めて低い”と論じるといった具合いである。なお、こうした分析では、政府による実物資産売却を仮定しない限り、一般政府の粗債務、純債務のいずれを扱っても、結果に大差はない。
しかし、こうしたアプローチには二つの問題がある。第一は、シミュレーションの結果がトレンド名目GDP成長率の“前提”に大きく影響されるため、思考実験的な色彩が強いというものだ。
すなわち、0%の名目トレンド成長率を想定した場合には、25%を超えるような高水準まで消費税率を引き上げないと一般政府債務GDP比率が一方的に上昇してしまうと計算される。しかし、プラス2%程度の名目トレンド成長率を想定した場合には、消費税率は8%に据え置いても同比率の一方的な上昇は容易に回避できる、との結果が得られる。財政維持可能性の問題は高いトレンド名目GDP成長率の達成可能性の問題に置き換えられてしまう。