◇変わるショッピングモール
◇中核はデパートから専門店へ
三輪裕範
(伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)
米国で生活してつくづく感じるのは「米国人は本当に買い物が好きな人たちだなあ」ということである。日本のシャッター商店街のような所はほとんどなく、どの商店街も買い物客でにぎわっている。特に衣料、靴、宝石などの各種ブランド店、書店、レストランなどが一緒に入ったショッピングモールでは、年中、老若男女を問わず、非常に多くの人たちが買い物や食事を楽しんでいる。こうした米国のショッピングモールに、最近ちょっとした変化が見られる。それはテナントの変化である。以前はどこでも中核テナントにシアーズやメイシーズ、サックスといった有名デパートが入り、大きな面積を占めていた。
米国のショッピングモールはデイトン・ハドソンというデパートが1956年にミネアポリスの郊外に作ったのが最初だと言われている。それほどショッピングモールとデパートの結びつきは強く、デパートのないショッピングモールというのは考えにくかった。
ところが、近年、こうしたデパートがショッピングモールから次々と消えていっているのだ。そして、その空いたスペースに、フォーエバー21やH&M、ザラといったファストファッション(流行を取り入れた新商品を低価格で大量販売するファッション業態)や、チーズケーキ・ファクトリーなどカジュアルレストランの店が入るようになってきた。
では、なぜこのような変化が起こったのか。それはデパートの販売が落ち込む一方、ファストファッションなど、ある分野に特化したスペシャルティー・ストアと呼ばれる形態の店の販売が伸びているからだ。実際に、モールの管理運営をしているジェネラル・グロース社によると、今年3月末までの過去1年間の実績で見た場合、デパートの販売は前年比1・9%減少する一方、スペシャルティー・ストアの販売は4%も伸びている。2015年までの10年間で見れば、前者の販売は10%落ちる一方、後者の販売は33%も伸びるなど、その差は一段と激しくなる。
◇小型店からは高賃料
これだけの差が出てくると、当然、ショッピングモール運営会社としてもテナントの入れ替えを検討しなければならない。販売不振のデパートには退出してもらい、空いたスペースに販売好調のスペシャルティー・ストアを入れることになる。
もっとも、店舗の入れ替えは改装が必要で、モール運営会社にとっても一時的な負担増となる。しかし、一時的にコスト増となっても、スペシャルティー・ストアを中心とした新しい店舗にテナントになってもらう方がモール運営会社にはメリットが大きい。というのも、賃料が格段に高く取れるからだ。デパートはキーテナントとして大量のスペースを使用していた。このため、大口向けの値引きを適用して、1フィート四方当たり2~3ドルと非常に安く貸していた。スペシャルティー・ストアなどの小型小売店に貸せば、その10倍以上の賃料を取れる。
たしかに最近は、どのショッピングモールに行っても、キーテナントのデパートにはあまり買い物客の姿が見えず、以前のような活気が感じられない。どこに行っても、いつも多くの買い物客が集まっているのは、スペシャルティー・ストアなど流行の先端を行く新しい店舗だ。
筆者のように昔の米国のショッピングモールを知る者にとっては、デパートとショッピングモールは分かち難く結びついていた。時代の流れとはいえ、そんなショッピングモールからデパートが次々に消えていく姿を見ることは、やはり一抹の寂しさを覚える。
(『週刊エコノミスト』2016年8月30日特大号<8月22日発売>62ページより転載)