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経営者 編集長インタビュー  越智仁 三菱ケミカルホールディングス社長

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◆化学3社統合を機に、総合力強化

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 三菱ケミカルホールディングス(HD)は、石油化学事業(石化)の三菱化成と三菱油化が合併した三菱化学が原点の総合化学メーカー。2005年のHD設立以降、M&A(合併・買収)で事業を拡大。石化のほか、三菱樹脂や三菱レイヨンの樹脂製品、田辺三菱製薬の医薬品、大陽日酸の産業ガスなど多様な事業を展開している。

 

── 足元で伸びている事業は。

越智 コーティング材など自動車の部材が安定して伸びています。電機業界向けでも、フラットパネルディスプレーに使うポリエステルフィルムなどが堅調です。医薬品では、自社製品を海外の会社に委託したロイヤルティー収入で年間数百億円を得ています。15年度は、糖尿病治療薬「インヴォカナ」や多発性硬化症治療剤「ジレニア」が伸びました。

── 他の分野はどうですか。

越智 合成樹脂では、アクリル樹脂原料「MMA」が、世界で約40%のシェアがあります。エタンガスから作る他社にない低コストの製造法のため、競争力がある製品です。これも自動車や、欧米の住宅でコーティング材として重宝されています。また、アクリル樹脂の「PMMA」は、発光ダイオード(LED)の材料としてメーカーに提供しています。

 

 ◇石化再編にめど

 

 石油化学事業では、エチレンプラントの削減などの事業再編を進めている。16年は、採算が悪化した合成繊維原料「PTA」事業で中国・インドから撤退する。

 

── 石化の構造改革の状況は。

越智 11年度から15年度までの中期経営計画で事業を再編し、構造改革は一段落した状態です。伝統ある事業なので抵抗感はありましたが、ポリエチレンなどで収益性の低い事業を縮小してきました。この3年で4基あったエチレンプラントは2基を停止しました。現在、プラントの稼働率は100%を超えており、低コストの運営を実現しています。

── 現状の収益力の評価は。

越智 まだ不十分です。現在、約4兆円の売り上げですが、営業利益は2800億円です。16年度から5年間の中計では、20年度で3800億円の営業利益を目指しています。

── 収益力をどう高めますか。

越智 海外展開と新事業の2軸で進めます。海外売上比率で当社は43%程度で、米化学大手デュポンなどより低い水準です。中国経済が減速した14年度以降、世界的に低成長の状況ですが、拡大している海外市場を取り込むことは欠かせません。炭素繊維やプラスチック製品、医薬品など、高性能で競争力のある商品を拡大していきます。MMAでも、サウジアラビアに新たなプラントを作り、17年に稼働する予定です。

── グローバル化の体制は。

越智 今後、200以上ある海外拠点のうち、地域ごとの統括拠点を設立し、現地市場の把握や地域間の連携を強化していきます。従来の日本主導ではなく、現地の主体性を尊重する方針です。グループで約6万9000人の従業員のうち、約2万4000人いる海外人材の活性化にもつながると考えています。

── 新事業で期待する分野は。

越智 電機産業向けの製品は、次世代の事業と位置づけ、将来の収益拡大に向けて改善しています。その一つが、LEDに使う「窒化ガリウム」の基板です。LEDの輝度が高くなり、光を遠くまで飛ばせるので、自動車のヘッドライトには欠かせません。有機太陽電池の部材も、フレキシブルに形状を変えられ、軽いものに改善していきます。

── 大陽日酸を14年に買収しました。

越智 同社は収益が安定しており、16年度で四百数十億円の営業利益を見込んでいます。また、産業ガスは社会インフラなので、さまざまな製品や顧客とのつながりが期待できます。実際、三菱レイヨンが医療用で提供している炭酸泉(二酸化炭素が溶け込んだお湯)では、大陽日酸の炭酸ガスを使います。三菱化学が作る窒化ガリウム基板の生産設備も大陽日酸の製品です。

── 17年4月に、三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの3社が統合し、三菱ケミカルが発足します。統合に伴う改革は。

越智 統合する3社で4万人の従業員がいますから、各事業部門に権限を委譲し、スピード感のある経営を促します。3社で60の事業部門を10に再編し、統合会社を含むグループ全体で技術や販売チャンネルを共有、グループの総合力強化を図ります。

── 統合に向けた課題は。

越智 これまでは、グループに数ある事業会社や事業部門が単独で動き、研究開発の知見や販売チャンネルなどを十分に共有していませんでした。例えば、自動車用製品を欧州で販売する際、現地の販売チャンネルに強みがある三菱樹脂と連携すれば、さらに拡大できるはずです。

── M&Aの方針は。

越智 今後、グループ内で連携を進めて新たなニーズを探るようになれば、既存の事業から少し離れたニーズも見えてきます。その際、自社にない経営資源は、他社との提携やM&Aで取り入れます。単なる規模拡大ではなく、グループとしての事業ポートフォリオ(構成割合)の観点でシビアに見定めていきます。

(構成=藤沢壮・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 1970~80年代だったので、オイルショックで石化が大変な時期でした。アンモニア製造の課長代理として、作業効率改善や要員削減といった現場の合理化に取り組んでいました。

Q 「私を変えた本」は

A 2000年ごろ、製造畑だった私が初めて事業部長になったときに読んだ『マネジメント』(ピーター・ドラッカー)です。

Q 休日の過ごし方

A 妻と買い物に行くことと、スポーツクラブに通っています。

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 ■人物略歴

 ◇おち・ひとし

 愛媛県立西条高校卒、京都大学大学院卒。1977年三菱化成工業(現三菱化学)入社、2009年三菱ケミカルホールディングス取締役執行役員経営戦略室長を経て、15年6月社長就任。63歳。

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事業内容:三菱系の総合化学持ち株会社。傘下に石油化学、合成樹脂、医薬品などの製造・販売会社を持つ

本社所在地:東京都千代田区

設立:2005年10月3日

資本金:500億円

従業員数:6万8988人(連結、2016年3月31日現在)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:3兆8230億円

 営業利益:2800億円


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