◇リスク回避の「パーフェクトストーム」
森田隆大
(森田アソシエイツ代表)
金価格が今年に入って反転上昇を続けている。国際的な指標であるロンドン金現物市場の「ロンドン・フィックス=建値」は今年1月、1トロイオンス=1000ドル台を底に反転し、8月中旬は1350ドル前後で推移。リーマン・ショック(2008年)後に過去最高値をつけた局面以来、再びの上昇期を迎えている。投資家にとって金を保有する動機には「インフレリスク」などいくつかのリスクの回避があるが、現在はそれらリスク回避の動機がすべてそろった「パーフェクトストーム」(すさまじい大嵐)の時期にある。
リーマン・ショック前に1トロイオンス=1000ドル近辺で推移していたロンドン・フィックス金価格は、11年9月に1895ドルの史上最高値をつけ、12年末まで歴史的高値圏で推移した。欧州債務危機が和らぎ世界の金融市場が落ち着きを取り戻したのにつれて金価格も下落の一途をたどっていたが、今年に入って新興国を中心に世界経済への懸念が高まり、日銀が1月に決定したマイナス金利政策の導入をきっかけに上昇のピッチを強めている。
金は新たな価値を生まない資産だが、投資家が金を保有する動機は、大きく六つある。(1)貨幣価値の下落に対処する「インフレリスクの回避」、(2)金価格が株式や債券など主要資産との値動きの相関が低いことを利用した「分散リスクの回避」、(3)万一の危機に備えた「テールリスクの回避」、(4)債券のように発行体の破綻リスクがないことを生かした「信用リスク」の回避、(5)通貨暴落に備える「通貨リスクの回避」、(6)売りたいときに売ることができる「流動性リスクの回避」──である。
現在の上昇局面をこの六つの動機に照らして考えると、いずれもすべて当てはまることに気づく。