◇市場を左右する“大株主”日銀
井出真吾
(ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジスト)
日銀は7月29日の金融政策決定会合で、「金融緩和の強化」の一環として、日本株のETF(上場投資信託)買い入れ枠を年間6兆円に拡大した。従来の年間3・3兆円からほぼ倍増となる。日銀のETF買い入れ枠の拡大は、日本株の大きな下支え要因となるが、買い入れ枠の拡大に伴い1年後の来年7月末には、実質20銘柄超で1割以上の株式を保有する“大株主”となる。いまや日銀自身が、日本株市場の行方を左右する一大投資家として振る舞っている。
日銀の拡大後の買い入れ枠の規模は、アベノミクス始動直後の2012年12月~13年4月、日経平均株価を9000円台から1万4000円程度まで一気に引き上げる原動力となった海外投資家の買い越し額(7・6兆円)に迫る金額である。これほどの規模のマネーが今後、間違いなく買い越すとすれば、世界経済の先行き不透明感が高まる中で、日本株の大きな下支え効果となることが期待される。
日銀はETF購入の狙いを「リスクプレミアムを下げるため」と説明している。リスクプレミアムとは、平たく言えば「投資家がリスクを嫌がる度合い」である。日銀がETFを購入することで、投資家が日本株のリスクを取りやすくすれば、株価の上昇につながる。日銀は株価の上昇によって社会の不安心理を和らげ、ひいては個人消費や設備投資の拡大に期待する。とはいえ、中央銀行が間接的にも株式を購入し、市場の価格形成に影響を与えるのは、世界中でも異例中の異例の政策だ。