◇「仮想通貨IPO」の時代が来る
Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
日本円でビットコインを購入・売却するための取引所を運営する。月間の取引規模は62万9416BTC(BTCはビットコインの単位)、約440億円(7月)。
── ビットコインが活況ですね。
張 理由の一つは、日本の国会で5月末に仮想通貨の悪用を防ぐための規制を定めた改正資金決済法が可決されたことです。法整備が進み仮想通貨に対するイメージが良くなりました。
もう一つは、4年に1度、新たな通貨の供給量が半減するという、ビットコイン特有の仕組みの影響です。通貨価値を担保するための半減期が7月にあり、それを見越して6月に価格が2倍に急騰しました。
さらに、ビットコインの基盤技術である「ブロックチェーン」の応用技術開発に大手金融機関が乗り出したこともあります。ブロックチェーンとはインターネット上の巨大な台帳で、世界中のビットコインのユーザーによって共有され、新たな取引が行われる度に取引記録が書き加えられる仕組みです。
── 取引所を作った理由は。
張 2013年ごろ、世界中で取引されるようになったビットコインに通貨の未来を感じ、興味を持ったのがきっかけです。
しかし、当時は日本でビットコインを買いたくても、日本の仮想通貨取引所は対応が遅く、また、海外の取引所から買う場合は、英文の身分証などを用意する必要があり、入手手続きに時間がかかりました。
そこで、もっといいサービスを提供できる取引所を自分で作ろうと考え、14年3月にBTCボックスを創業しました。取引所に口座開設の申し込みをしたら、翌週にはビットコインを入手できるサービスを日本で初めて作りました。
── サービスの内容は。
張 現在、ビットコイン含め三つの仮想通貨と日本円の交換の場を提供しています。ユーザーは口座を作れば、仮想通貨と円の取引が自由にできます。
── 収益源を教えてください。
張 一つ目は、ビットコインと円の取引手数料ですが、現在は、国内取引所間で競争が激化しているため、2年前から各社ゼロに設定しています。ただ、こうした状況は健全とは言えません。
二つ目は、ユーザーがBTCボックスの口座にある日本円を、自分の銀行口座に出金する際にかかる0・5%の手数料です。
三つ目は、ビットコインの短期売買で利ザヤを抜くといった、いわゆる信用取引をしたいユーザーにビットコインを貸し出す際の手数料です。最低利率は0・1%で、貸出量に応じて大きくなります。あくまで一時的な貸し出しで、長期的なサービスは考えていません。
── 他社と比べて強みは。
張 他の取引所は、システム関係で何らかの不具合を起こして取引を停止した経験がありますが、BTCボックスは、取引所の開設以来、サーバーがダウンするといった事故を一度も起こしていません。理由の一つは、取引システムが強固なことです。システムの構築は外注せず、すべて内製しています。それを可能にする技術スタッフがいます。
◇ブロックチェーン2.0
── 9月から始めた新サービスはどのようなものですか。
張 日本円を介さずに仮想通貨同士を直接売買する取引所「BTCボックス・ドットコム」を開設しました。取り扱うのはビットコインとイーサリアムの通貨ペアです。
イーサリアムは、昨年夏に仮想通貨市場に登場した比較的新しい仮想通貨です。そのブロックチェーンを構成する各ブロックには、ビットコインなどに比べてより大きな情報を記録できるため、決済のほかさまざまな用途に活用できます。これまでの通貨目的の技術が「ブロックチェーン1・0」と呼ばれるのに対し、「スマートコントラクト」という電子契約が可能になるイーサリアムは「ブロックチェーン2・0」と呼ばれ注目されています。
── 具体的に何ができますか。
張 契約情報を盛り込むことができるので、期日までに指定の口座にこれだけ入金するということをあらかじめ書き込めば、期日に自動的に支払いが実行されます。証券や不動産の取引に使えます。今、大手銀行などが開発中の技術は、すべてブロックチェーン2・0で、いわゆる「フィンテック」(ITを活用した金融技術)の一つです。
現在、仮想通貨は利殖目的で買われることが多いですが、投機目的ではなく、仮想通貨同士の売買を仲介することで、ブロックチェーン2・0の活用領域を広げることがBTCボックス・ドットコムの目的です。8月には技術者派遣業の夢真ホールディングスと資本業務提携しました。フィンテック領域でブロックチェーン技術者の育成・派遣を行う新事業を立ち上げるのが目的です。
── 今後の目標は。
張 株式新規公開(IPO)のように、イーサリアムのような有望な仮想通貨を新規公開する「ICO」(イニシャル・コイン・オファリング)が目標です。ICOした通貨を使った新たなサービス創出のプロジェクトへ出資を募る役割も担いたいです。また、大手金融機関が提供するアプリケーション開発を受注できれば、新たな収益源になります。
(構成=大堀達也・編集部)
◇横顔
Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 日本の電機メーカーでアップルの製品の共同開発に携わっていました。
Q 「私を変えた本」は
A 米ペイパル共同創業者エリック・ジャクソンの『The PayPal Wars』です。ペイパルとイーベイの競争は、仮想通貨取引所の競争に似ていて、目標設定や決断の参考になります。
Q 休日の過ごし方
A 2歳の息子と公園に行ったり、読書や映画鑑賞をしたりすることが多いです。
■人物略歴
◇デビッド・チャン
中国山東省出身。2004年遼寧省大連開発区第8高校卒業、08年瀋陽工業大学卒業後に来日し、日本の電機メーカーに入社。14年3月に独立し、BTCボックスを設立。31歳。
◇BTCボックス
事業内容:仮想通貨と日本円の取引所運営
本社所在地:東京都中央区
設立:2014年3月
従業員数:13人
月間仮想通貨取扱高(ビットコイン):約440億円(16年7月実績)