◇アフリカ、中東発の危機が多発
2008年冬に邦訳が出版された『自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来』(原著は03年刊行)で、戦争やテロの原因は、突出して数が多い若者層「ユース・バルジ」にあることを解き明かしたのが、社会学者のグナル・ハインゾーン氏だ。アフリカや中東の人口不均衡による移民が、欧州にテロを運ぶと警鐘を鳴らす。
長年、私はテロや戦争の原因の一つに「ユース・バルジ」(Youth Bulge)が大きく関係していると説いてきた。ユース・バルジは直訳すると「若者の膨らみ」。15歳から29歳までの男性が、人口に占める割合の30%を超えると、雇用機会が限られてしまい、居場所を見つけられない若者が増えることを指す。
多くの若者は、野心や目標を抱いているのに、社会で手に入れられるキャリアや職業といった「ポジション」が極めて少ないとなると、どうなるのか。人口統計上は“余剰”ともいえる若者たちが、激しいいら立ちを覚え、ストレスにさらされる。
怒れる若者たちが向かう先は、限られる。チャンスを求めて、移民として他の国へ渡るか、犯罪に走るか、国家への反逆あるいは革命を起こすか、内戦を起こして社会の少数派を排斥し、暴力によって国を征服しようとする。
これらは決して、極端な考えではないことを、歴史が証明している。日本に関していえば、江戸時代末期(1870年ごろ)3000万人強だった人口は、1930年ごろに6500万人と倍増した。1家族に5人子供がいることが普通で、ユース・バルジの状態にあった。そのとき、日本は何をしただろうか。隣国を侵略したのだ。
◇高い戦争指標
現在、先進国はどこも少子化で、1人しかいない子供を戦争に送って戦死させるわけにはいかない。家族が絶えてしまうからだ。
このように、その国が戦争に向かうのかどうかについて、ユース・バルジをさらにわかりやすく説明しようと、私が考案したのが「戦争指標」だ。男性の年齢階層別のうち、55歳から59歳までの間もなく引退を迎えるグループと、15歳から19歳までのこれから社会で競争していくグループの二つを比較し、どれだけ社会に活躍する場所が生まれるかを測る指標だ。
1000人が引退して年金受給者になれば、社会の中に1000人分のポジションが空くはずだ。単純に計算し、二つのグループの人数が1対1であれば、次の世代に仕事があるということだ。ちなみに日本の戦争指標は0・82。つまり1000人が引退したとき、若者は820人しかいないため、理論上は全員が仕事に就けるということになる。
アフリカの戦争指標をみてみよう。最悪のザンビアは7・0、ウガンダ、ジンバブエは6・9だ。ザンビアでは1000人分の職業を巡り、7000人の若者が競い合わなければならない。戦争指標が3以上の国は、若者の社会不安が大きいと言え、何らかの形で暴力に訴える危険性が高い。そしてそういった若者の比率が極端に高い国は現在、アフリカや中東を中心に52カ国もある。暴力に訴えようとするユース・バルジの若者の数は、2050年に20億人になると推定される。
アフリカは、1950年に18歳以下の人口は、世界人口の9%にすぎなかった。ところが、2100年には47%を占め、アフリカから4億5000万人が移民を希望すると想定されている。
人口推移でみると、1914年にフランスとドイツの人口は合計9800万人、アフリカ大陸は1億1500万人だった。しかし、2015年にはフランスとドイツは合計1億4600万人に対し、アフリカは12億人と急激に増加している。
欧州連合(EU)は2050年までに、7000万人の技能を持った移民を必要としている。その解決策として、アフリカからの移民を大量に受け入れることができるだろうか。
学力で考えると、国際学力試験で数学のトップは韓国人だ。その半分しか得点できないガーナ人を移民として受け入れ、技能が必要な職業に就けるよう教育することは、果たして可能だろうか。
そこまで望むのは、酷というものだ。ドイツがカメラ産業で、日本に抜かれたとき、一部のドイツ人は「日本人はドイツ製品をコピーしただけだ」と言った。仮にそうだとしても、「カメラを分解してコピーを作れ」と命じられたところで、能力があって製品のメカニズムを理解していないかぎり不可能だ。
アジア人は学力統計で、常に上位を占めている。経済指標でみると、ガーナと韓国は1957年に、ほぼ同程度にあった。その後60年間の韓国の躍進をみれば明らかだろう。教育はすべての人間に平等に与えられるのではなく、できる人材はより多くの知識を吸収して、さらに差をつける。教育は平等ではなく、不平等を生むのである。
◇移民は暴力の輸入だ
行き場のないユース・バルジによる危機は、アフリカだけではない。中東から欧州を目指す移民希望者は、8300万人いると言われている。これが将来的に大きな問題となることは間違いない。イスラム教徒が世界を席巻することになるからだ。………
(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>38~41ページより転載)
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