◇小峰隆夫(法政大学大学院教授)
── 著書『人口負荷社会』(日本経済新聞出版社)で、「人口オーナス」による悪影響を解説した。
小峰 人口の変化の中で最も重要なのは、生産年齢人口(15~64歳)の減少だと考えている。「オーナス」は、重荷という意味だ。働いている人が次第に高齢者に移行し、少子化が進んでいるため、生産年齢人口が占める割合が低下する。
人口オーナスは、さまざまな問題を起こす。第一に、労働力不足。第二に、生産年齢が「貯蓄をする人口」と考えると、社会全体の貯蓄率が低下し、日本の貯蓄率はゼロ、さらにはマイナスになる。将来、資金調達が必要な局面で大きな問題になる。
第三は、社会保障だ。日本は「賦課方式」のため、年金・医療・介護制度の持続が難しくなる。
第四に、地域が疲弊する。地域別の人口変化をみると、人口規模の小さい地域ほど負荷が重くなる。地域格差はますます広がることになる。
第五が、民主主義の崩壊だ。有権者に働く人が減り、高齢者が増えることでいわば「シルバー民主主義」になる。日本が現在抱えている問題の解決を難しくする。
── まず何に取り組むべきか。
小峰 社会保障は、人口が伸びていた時代の制度が維持されている。7月の参院選でも、ほとんどの政党が社会保障を充実させると公約に掲げた。今必要なのは合理化で、問題解決と逆行している。それがシルバー民主主義の弊害だ。
社会保障を維持する財源は、保険料、税金、国債の三つしかない。現実に起きているのは保険料の値上げだ。保険料は企業も負担するため、「雇用税」が増えることになる。企業に人を雇うなと言っていることと同じで、経済の活力を奪っている。
── どの程度のマイナスか。
小峰 人口は、年率マイナス0・5%で減る。また働く人だけが付加価値を生むと考えると、生産年齢人口が減ることで、1人当たり所得が減る。これがマイナス0・5%。合わせてGDP(国内総生産)にマイナス1%の下押し圧力がかかる。
対抗するには、生産性を上げるしかない。人口オーナス期には、生産性がますます重要になる。
◇早急に社会保障合理化を
── イノベーションで人口オーナスの問題は解決するのではないか。
小峰 イノベーションで解決するのではなく、………
(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>92ページより転載)
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