◇「リフレ派」と決別に乗り出した日銀
髙橋 亘
(大阪経済大学教授、元日銀金融研究所長)
日銀が異次元緩和で取り組んだ、かたくなな量的拡大は危険な賭けだった。成長
力が高まらないままでは、持続的なインフレは望めない。日銀は実質金利の低下
効果を過信すべきでなく、無理に2%のインフレ目標にもこだわるべきでない。
日銀は9月21日、「金融緩和強化のための新しい枠組み」として「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を発表した。日銀はこれまで、金融政策の操作目標をマネタリーベース(日銀が供給する通貨の量)の拡大「量」としてきたが、この量的目標の旗を降ろして長期、短期の「金利」へと大きく転換した。日銀はデフレ脱却のためにかたくなに量的拡大を追求する「リフレ派」と呼ばれる考え方に支配されてきた。量的拡大の効果が薄いことを認識してようやく決別へと動いたようだ。
操作目標とは、日銀が金融政策の実施に当たってコントロールを約束する量や金利などの指標を指し、毎回の政策決定会合で決定される。黒田東彦総裁就任後の2013年4月から始まった「異次元緩和」では、マネタリーベースの年間増加額(現在は年間80兆円)を操作目標に採用し、大量の国債やETF(上場投資信託)などの資産買い入れを続けてきた。さらに、今年2月からはマイナスの短期金利が操作目標に加わった。金融機関が日銀に持つ当座預金の一部にマイナス0・1%の金利を課すことで、期間の短い金利をマイナス圏へ誘導する狙いである。
しかし、日銀は今回の枠組みの変更によって、マネタリーベースの増加を操作目標とすることはやめ、新たに長期金利(10年国債金利)を操作目標に据えた。長期金利は現在、マイナス0・05%前後で推移するが、これを0%程度へと誘導する方針とし、短期から長期までの金利をつないで描かれる「イールドカーブ」(利回り曲線)全体を操作することとした(イールドカーブ・コントロール)。また、現在と同じ規模の国債買い入れは継続するものの、その購入量には幅を持たせたほか、買い入れる内容も長期債偏重から短期債のウエートを高めるなど、バランスを取った柔軟なものにした。………