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【エコノミストリポート】米フォードが21年に完全自動運転 2016年10月18日号

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◇相乗り事業注力で狙う自社の変革

 

貝瀬斉

(ローランド・ベルガー パートナー)

 

「自動運転車はヘンリー・フォードが大量生産方式の発明で与えたのと同等のインパクトを社会に与える可能性がある」
 米自動車大手フォード・モーターは8月16日、運転操作を必要としない完全自動運転車を2021年までに実用化する計画を発表した。マーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)は創業者の名前を出しながら自動運転の可能性を強調した。
 完全自動運転車とは、ステアリングもアクセルペダルもブレーキペダルも付いていない運転操作を必要としない車両。フォードは21年にライドシェア(相乗り)市場に数千台単位で投入すると宣言した。しかも、その車両は個人向けの市場よりも先にライドシェア市場に投入するという。
 つまり、現在多くの完成車メーカーが取り組んでいる(1)個人向けの手動と自動の二つのモードが並存した車、(2)完全自動運転車──というステップを踏まずに、一気に完全自動運転車の市場投入を目指すということである。しかも、完成車メーカーでは初めてライドシェア事業者向けに注力することを明言した。フィールズ氏は「消費者の車に対する考え方や優先順位が変化して、移動手段も変化する中、フォードとしてのビジネスモデル全体の再考を迫られている」と語っている。

 

◇DNAと危機感

 

 フォードは元々、多くの完成車メーカーの中では完全自動運転に対して必ずしも積極的ではないように見受けられていた。14年9月には、ビル・フォード会長が「自動運転は一部の消費者を怖がらせる可能性があるので、そのような機能を使わないという選択肢も与える必要がある」との自動運転に消極的な見解を表明。その上で「目は道路を見つめ、手はハンドルに置かなくてはならないという状況は、今後もしばらくは続く」と話していた。
 しかし翌15年には、25年までに「多くの消費者がその恩恵を受けることができるような」完全自動運転車の投入を目指し、関連するセンサーやソフトウエアの開発を加速させることを明らかにした。加えて、自動車を生産・販売するのみではなく、さまざまな移動手段の提供を目指すという内容を盛り込んだスマートモビリティー計画も発表。その上で、今回の21年までのライドシェア市場向け完全自動運転車投入宣言である。
 しかも、自動運転関連の売り上げを30年までに全体の2割まで引き上げると明言している。この方針転換の裏には、何があったのだろうか。
 フォードは近年、欧州や南米での販売低迷などから業績的には堅調とは言い難い状況であった。11~14年にかけて、売上高は年率2%を下回る成長にとどまり、EBITDA(税引き前利益に特別損失、支払利息、減価償却費を加算した値)の売上高に対する比率を示す「EBITDAマージン」も12・4%から8・5%に低下した(図1)。しかし、そのような短期的な業績低迷からの脱却以上に、10~15年単位で訪れるパラダイムシフトに伴う事業機会の獲得に問題意識を持っていたとみられる。
 00年前後、インターネットの本格普及を見据えて当時のジャック・ナッサーCEOは、金融や保険の拡大に力点を置き、自動車というモノを媒介にした総合サービス事業への転換を図った。実際には、ナッサー氏の任期途中の退任によって方針転換を余儀なくされたものの、将来を見据えて合理的であれば既存事業やしがらみにとらわれることなく、大きな組織の事業そのものを抜本的に変えることもいとわない、という姿勢は当時からも見受けられる。
 そのような姿勢はナッサー氏の「将来は製造部門を社内に置く必要すらないかもしれない」という言葉にも表れている。更に言えば、元々ごく限られた富裕層のための自動車を、ライン生産による大量供給で中流層にも手が届くものにした「フォーディズム」から共通した姿勢であり、フォードのDNAとも言える。
 フォードが他の完成車メーカーと異なった決断をした背景には、自動運転について、今の個人保有を基本とした利便性・安全性向上の手段ではなく、人々の移動のあり方や公共交通機関を含めたモビリティーのあり方を根本から変えうるものと認識していることがあると考えられる。それは、変化を先取りして大きな市場での事業機会を見いだすだけでなく、出遅れや躊躇(ちゅうちょ)が将来にわたる収益機会の損失や業界でのポジション争いにおける致命傷になりかねないという脅威をより現実的に捉えたからであろう。
 もちろん、そのような脅威を抱いているのはフォードだけではないだろうが、それに基づいて全社の大きな戦略転換をスピーディーに判断できるまで至る企業は多くはない。

 

◇幅広い提携強化

 

 フォードは矢継ぎ早にさまざまな手を講じてきている。……

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月18日号<10月11日発売>82~84ページより転載)


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