◇合併反対は大株主の経営判断
◇出光は自立経営で生き残り可能
出光昭介・出光興産(以下、出光)名誉会長の代理人を務める浜田卓二郎氏に、対立の経緯と昭介氏の真意を聞いた。
(聞き手=後藤逸郎/松本惇/藤沢壮・編集部)
── 合併反対の理由は。
浜田 昭介氏は、石油業界が危機にあるいま、合併に費やす努力やエネルギーを目の前の課題に向けるべきだと考えているからだ。
企業の合併は、言うはやすしだが、実行するには大変な困難が伴う。会社側は製油所の立地が重複しないというが、両社とも、千葉県の東京湾や愛知県の駿河湾にある。設備過剰の石油業界ではどちらかが廃止を迫られる。
その合理化の努力をしなければ合併の効果は出ない。これまでの面談では、こうした合併のメリットやスケジュールばかりが説明された。
── 「創業家の乱」と言われる。
浜田 これには違和感がある。出光が上場して以来の10年間、昭介氏は経営に一切干渉してこなかった。しかし今回は、経営体質が違う大手2社の合併だ。昭介氏は、30%超の株式を持つ創業家として、権利だけでなく、責任もある。出光の戦略上、良い判断ではないとの思いで反対した。
そのうえ、会社側は合併の方針に「対等の精神」などと掲げている。これほどの業界大手2社の対等合併がうまくいくとは考えられない。
── 対等ではなく、吸収なら良いのか。
浜田 吸収であれば、昭和シェル石油の関係者が反対するし、実際にガソリンスタンド(GS)などから不安の声があった。ただ、吸収か対等かは大きな理由ではない。昭介氏は、合併自体に反対だ。出光のロゴマークや名前を残すといった条件の話をされるが、条件闘争ではない。
── 重要なのは創業家からの取締役選任か。
浜田 会社側は合併の前提条件のような捉え方をしているが、2015年12月17日の文書で懸念事項の最後に「この際」と並列で書いていたに過ぎない。創業家との意思疎通を円滑にする趣旨だ。
── では、具体的に何が合併で問題なのか。
浜田 昭介氏が強調するのは企業体質だ。出光と昭和シェル石油ではまったく違う。出光は大家族主義を掲げ、労働組合や定年制がない。国家のため、社員のため、顧客のためを主義として、それを誇りとしてきた特殊な会社だ。一方で昭和シェル石油は、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル(以下シェル)、国営石油会社のサウジアラムコが大株主の外資系企業だ。労組がいくつもあり、先鋭的な活動をしている。くしくも、出光の株主総会の冒頭で質問したのは、昭和シェルの組合員だった。……