◇マイナス金利を生活防衛
◇中古住宅購入は確かな投資
酒井雅浩/大堀達也/丸山仁見(編集部)
賃貸か購入か。長年の論争は決着した。マイナス金利時代は、中古住宅の購入が正しい。
理由は日銀の金融政策だ。日銀は9月、金融政策の枠組みを変更し、「長期金利(10年物国債金利)が0%程度」になるよう国債を買い入れすることを決めた。13年4月から黒田東彦総裁が掲げた量的緩和による物価上昇率2%を達成できず、大量の国債を買い入れる「量」から「金利」へ政策手段を改めた形だ。
日銀は、金融機関へのマイナス金利も導入し、足元の長期金利はマイナスとなった。ただ、今回の日銀の方針転換を受け、歴史的な低水準が続いた住宅ローン金利は底打ち感が出てきた。日銀が長期金利0%程度を目指す以上、さらに住宅ローン金利が下がる余地は期待できない。
「今すぐ家を買う必要はない」のか。
その答えは将来のインフレリスクをどう考えるかにかかる。
日銀の異次元緩和で物価は大きく上がらなかった。しかし、将来も上がらないというわけではない。
日銀が長期金利を目標としたことに対し、ベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)前議長はブログで評価しつつ、金利変動が急激化するリスクも指摘した。インフレ志向の日銀が対応をひとつ誤れば、金利急騰は起こりうる。
つまり、超低金利で住宅ローンを組むことは、将来のインフレリスクへの備えとなる。インフレ時は、ローン返済額は実質目減りするからだ。また、一定の資産形成ができる。
しかし、賃貸の場合、更新時に家賃を引き上げられる可能性がある。自らの資産形成にもならない。
日本は長らく「新築信仰」が強かった。中古住宅の人気は圧倒的に低く、住宅市場に占める中古住宅の割合は14・7%(2013年)にすぎない。新築は「2割の付加価値」と言われ、購入直後から資産価値が目減りする。
それでも、新築信仰は続いたが、日銀の異次元緩和がその光景を変えた。高利回りを求めた富裕層がマンション投資に走り、東京23区の新築マンションは、15年の平均価格で6732万円になった(不動産経済研究所調べ)。13年から約1000万円も値上がりし、一般人の手が届かないものになった。
◇賃貸と同額で買う
誌面20~24ページの主要都市圏で示した中古物件は、30~55歳の年代別収入ごとに、頭金なしのローンで買える。
厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」などを基に、各世代の世帯所得の「中央値」を算出。ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏が住宅ローン可能額を試算した。不動産業界で常識の「年収の4~5倍」は無視し、現在の家賃と同額で無理なく返済ができる金額をはじいた。老後の資金計画まで見据えた堅実な内容だ。現在の生活水準も切り詰めない。
ボーナス返済は組み込んでないため、海外旅行や趣味、あるいはローンの繰り上げ返済など、利用者の嗜好に合った選択の余地を残した。
このため、高額な物件、都心の人気地区は外れる。誌面上の「割り切りゾーン」は、何かを犠牲にしなければ手に入れられないゾーンだ。きっぱりと割り切り、目を向けてはいけない。
ただし、殺人事件や自殺が起きた「事故物件」紹介サイトを運営する大島てる氏によると、割り切りゾーンでも事故物件なら2000万円程度で購入できる物件はあるという。また、貯蓄や両親からの援助など、頭金を用意できれば、物件の選択肢はさらに広がる。3000万円程度で推移する首都圏の中古戸建て、マンションの購入にも応用が効く。
中古住宅購入は、政府も後押ししている。政府は今年3月に閣議決定した「住生活基本計画」で「空き家の有効活用」を打ち出した。リフォームや中古住宅の流通を盛んにし、25年に約500万戸と推計される空き家を400万戸に抑える狙いだ。また、中古住宅購入支援のため、40歳未満に最大65万円を補助する制度を新設し、11月1日から受け付けを開始する。
リフォームの一種で、ライフスタイルに合わせ、快適に過ごせるように機能まで作り変える「リノベーション」も広まる。
「リノベは生活に家を合わせることができる」。今年8月、築38年の戸建てをリノベした女性会社員(41)は「立地」を重視し、海が見える中古の戸建てにした。リノベで「生活の中のちょっとした時間も充実している」という。「中古でよかった」と実感する毎日は、新築へのこだわりを捨てたことで始まったのだ。
定価:620円(税込み)
発売日:2016年10月31日