◇再生エネの普及妨げる
南野 彰
(エネルギー・環境ライター)
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を通じて調達される電源は、電力小売り事業への参入を予定する新電力各社にとって重要な電源の一つ。そのためFITの動向は、自由化後の小売市場にも大きな影響を与える。
そのFITは、2016年4月の告示改正と17年度中にも施行予定のFIT法改正によって制度の変更が見込まれている。その結果、結論から言えば、大手電力会社以外はFIT電気を電源として位置づけるのが難しくなると懸念されている。
そもそも、FITは太陽光発電や風力発電などの再生エネ発電企業が発電した電気を、電力会社などの小売企業に一定の価格で買い取ってもらうことで高コストの再生エネの普及を図る狙いがある。再生エネを買い取る小売企業は、その費用を電気料金に上乗せして消費者に支払ってもらう賦課金によって回収する仕組みだ。
FIT設備認定を受けて稼働している全国の再生エネ発電所の総出力は15年10月末時点で約2500万キロワット。FITの電気は大手電力会社だけが買い取っていると思われがちだが、すでに自由化されている50キロワット以上の高圧部門への参入企業である特定規模電気事業者(新電力)も買い取ることができる。この新電力の多くは、今回の小売り全面自由化後にも電力小売事業者として登録している。
特に販売先が限られ、電源の確保に悩まされる中小規模の新電力にとって、FIT電気は手ごろで貴重な電源として重宝されてきた。FIT電気の調達コストは実質的に「回避可能費用」と呼ぶ安価で固定的な費用だけで済んでいたためだ。
回避可能費用は、再生エネを買い取った電力会社や新電力の再生エネ受け入れ相当分の燃料費削減コストを指す。本来なら稼働するはずだった火力発電所などの発電コストを、FITを通じて再生エネを受け入れたことで減らすことができたと仮定して計算される。
再生エネを買い取った電力会社や新電力がそれぞれの買い取り実績に応じて国から受け取ることのできる交付金は、各社の買い取り費用から、この回避可能費用を差し引いたものである(図)。逆に言えば、電力会社や新電力が発電会社に支払う再生エネの買い取り費用のうち、回避可能費用を差し引いた交付金が手元に戻ってくると考えていい。つまり、FITを通じて再生エネを調達するのに必要なコストは回避可能費用だけ、ということである。
◇調達コストが市場連動制に
新電力各社の回避可能費用は年度ごとに多少の違いがあるものの、今までは比較的安価な費用として算定されていた。ところが、4月からの制度変更によって回避可能費用は従来の年度ごとの固定価格から日本卸電力取引所(JEPX)のスポット取引価格に連動することになった。……