◇昆虫食リポート
◇ザザムシは磯の香り、蜂の子はスウィーツ
伝統料理から加工食品、創作料理まで記者が食べてみた。
噛んだ途端、「シャクリ」。小エビを柔らかく煮たような食感とともに、口の中に磯の香りが広がった。体長は2~3センチで、見た目はほぼ真っ黒。岩のりをほうふつとさせる味わいで、白いご飯が欲しくなる。日本酒にもあいそうだ。
郷土料理としての昆虫の中でも、「高級珍味」といわれるザザムシの佃煮。川の浅瀬に住む水生昆虫の総称で、中でも長野県伊那市の天竜川上流域で採れたものは高級品といわれている。そのおいしさから乱獲された時代もあり、一時期は絶滅が危惧された。現在、伊那市では12月から2月末までの冬の間のみ漁が認められている。まさにこれから旬を迎える昆虫だ。
長野県をはじめ広い地域で今も食べられているイナゴの佃煮は独特の歯ごたえがあり、エビフライの尻尾によく似ている。香ばしくザクザクとした食感を楽しめるが、喉の奥に触覚や脚の感覚がいつまでも残るのが少し気になった。
イナゴよりも軽い食感で食べやすいのがカイコの蛹(さなぎ)だ。サクサク、パラパラと口の中でほどける感覚と、佃煮のほんのり甘い味付けがよく合う。おやつにしたい一品。カイコは、蛹を煮立てて絹糸を取り出した後、残りを食用にしてきた。いわば製糸業の「産業廃棄物」の有効活用だが、絹糸を吐いて繭(まゆ)を作る前の段階で食用にする調理方法もある。
より甘味を楽しめるのは、蜂の子(ハチの幼虫)だろう。体調1センチ程度の小さな粒で、噛(か)むとクニュッと柔らかくつぶれてふわっと融ける。かつてはさまざまな種のハチの幼虫が食べられていたが、現在、通常食用にされるのは、クロスズメバチとシダクロスズメバチだという。
日本の郷土料理として残る佃煮は甘辛く強めの味付けをしつつ、昆虫それぞれの食感や風味の違いを楽しめた。ただ、昆虫の「姿煮」でもあるため、見た目で苦手意識を持ってしまう人もいるだろう。
一方、良くも悪くも「昆虫らしさ」を感じないのが欧米の昆虫ベンチャーの加工食品だ。電通が出資する米EXO(エクソ)のコオロギ粉入りプロテインバー(ココア味)、同じくコオロギ粉10%配合のアイスランド、クローバー・プロテインのジャングルバー(880円)はいずれもチョコレート風味。味にも香りにも昆虫の形跡はない。普通のお菓子として食べられるので、昆虫食の入り口にはうってつけだ。
◇創作料理の会も
昆虫を使った創作料理を楽しむ会もある。昆虫料理研究家の内山昭一さんは、月に1度、昆虫を使った創作料理の試食イベント「昆虫食のひるべ」を都内で開催している。11月13日開催のイベントには、20人ほどが参加した。
献立は、セミの幼虫やカイコ、蜂の子を使った「バグチャウダー」、「ミツバチと白菜と柿のなます」そしてジャンボミールワームなどの「芋虫と里芋の天ぷら」の3品。調理は参加者全員で担当した。繭からカイコを取り出し、昆虫を下ゆでしていく。調理師の鈴木真奈美さん(29)はゆでたセミの幼虫の殻をむきながら「調理していると、昆虫が食材に見えてくるから不思議」と笑顔。参加者の年齢層は幅広く、初参加の人も多い。
参加した会社員の松田翔さん(28)は「バグチャウダーに入っていたスズメバチは歯ごたえがあっておいしかった。苦みもないし、アサリの代わりになりそう」と話した。見た目が強烈な芋虫の天ぷらは、表面はサクッと軽く中はジューシー。塩味が利いていてビールが欲しくなる。
会を主宰する内山さんは「食べることで昆虫をより身近に感じてほしい」と話す。確かに、口にしてみたことで、新しい食の世界が広がった。
(花谷美枝・編集部)
2016年11月29日号 特集「世界を救う昆虫食」記事一覧
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