土田陽介(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員)
米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利して以降、米国市場では株高・ドル高・金利高と米国買いの流れが強まった。ドルは独歩高となり、ニューヨークダウ工業株30種平均は連日史上最高値を更新、11月23日の終値は1万9000ドルを上回った。
日経平均株価も今年1月以来の1万8000円台となり、24日の終値は1万8333円。ドル・円も1ドル=113円台を付けた。トランプ氏の勝利は当初、政策の不透明感などから、リスクオフ(回避)の要因と見られていたが、現実にはリスクオンとして働いたことになる。
しかし、こうしたトランプ相場は、あくまで市場の期待先行の動きである。トランプ政権の大型経済対策で財政が拡張すれば、米景気が加速するだろうというシナリオにのっとり価格形成されているに過ぎない。期待が先行している以上、政策の実現が難しいことが明らかになれば、相場は下落することになる。
ただ、年末にかけて薄商いとなる中で、高値を追う投機筋が買いを先行させるため、年内までは現在の相場を維持すると見られる。米国株は1万9500ドルを試す展開も予想され、米国株に比べて出遅れている日経平均株価も1万9500円台をうかがう可能性がある。それに伴いドル・円も、1ドル=115円の突破は十分射程圏内と見ている。
相場反転のターニングポイントは、トランプ氏の大統領就任直後に行われる一般教書演説となるだろう。演説の内容もさることながら、その頃には政権の顔ぶれも固まり、上下両院との関係も見えてくる。大型経済対策に関しても、実現可能なものとそうでないものとの選別が進み、過度な成長期待は萎(しぼ)む。その時点で現在の相場は終焉(しゅうえん)し、米国株やドルは下落に転じ、春先にかけて大統領選挙前の水準を目指すと考えられる。
もっとも、金利の動きに関しては、二つの可能性が指摘できそうだ。現在の金利上昇は、米国の成長期待を反映した「良い金利上昇」と言える。しかし、この上昇は経済政策の行方次第では「悪い金利上昇」へと形を変える恐れもある。トランプ氏の掲げる減税があまりに大規模な引き下げであったり、政府がインフラ投資に過大な財政資金を投入することになれば、投資家は財政の悪化を警戒して米国債が売られる事態となる可能性もあるからだ。
◇政策が悪材料にも
そうなれば、相場はドル安・株安・債券安というトリプル安の展開となり、米国の景気自体に悪影響が及ぶ。また、ドル安と高金利が長期化すれば、物価の上昇と景気停滞が併存するスタグフレーションに陥る可能性も否定できない。日本の景気にも、輸出の減少や円高などを通じて強い下振れ圧力がかかるだろう。
とはいえ、これは最悪の想定に過ぎず、成長期待が剥落する中で、過度に売られていた米国債が買い戻されて金利が低下に転じるというのが、トランプ大統領就任後の相場のメインシナリオになりそうだ。
17年春先にかけての相場は、基本的にはドル安基調が強まると予想する。米国債が買い戻されることで、長期金利は1・8~2・0%の低水準で推移する。米景気も緩やかな拡大にとどまるため、追加利上げも慎重なテンポで行われる。従って、ドルは再び売られる方向に転じる公算が大きい。
加えて、春先以降は欧州連合(EU)で国政選挙が相次ぎ、民族主義政党の台頭を受けてリスクオフの流れが強まることも、円などの低リスク通貨への資金流入を促し、グローバルな株価の下落圧力になる。
そのため、春先以降のドル・円レートは100円割れを再び試す展開が予想され、日経平均株価も1万6000円前後まで下落する可能性がある。日本の長期金利は再びゼロを下回り、マイナス0・2%程度まで低下余地があるだろう。
(土田陽介・三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員)
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