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「のれん」のリスク アーム買収でソフトバンク急増 減損リスクが財務、業績に重し

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トランプ次期米大統領と会談した孫正義ソフトバンクグループ社長   Bloomberg
トランプ次期米大統領と会談した孫正義ソフトバンクグループ社長   Bloomberg

巨額ののれんの存在は必ず粉飾につながるものではないが、将来の減損損失の発生などさまざまなリスクを抱え込むことになる。

 

ソフトバンクグループが今年9月に子会社化した英アーム・ホールディングスの買収では、ソフトバンクに3兆円強もののれんが発生。のれんの総額は国内の企業でもダントツとなり、ソフトバンクの自己資本(約3兆1200億円)をも上回った。

 

ソフトバンクは総資産20兆円超の国内でも有数の規模だが、今なお積極的にM&A(企業の合併・買収)を続け、保守的な日本企業の中で異彩を放つ。のれんとともに膨れ上がったソフトバンクの財務に、果たして死角はないのか。

 

「IoT(モノのインターネット)の時代がやってくる。その中心がアームだ」「2020年には現在の4倍、5倍の規模になる」──。アーム買収時の記者会見で胸を張ったソフトバンクの孫正義社長。消費電力の少なさが特徴のアームの設計情報の入った半導体は、いまやほとんどのスマートフォンやタブレット端末で採用され、圧倒的な市場シェアと高い収益力を誇っている。今後、あらゆるモノがネットでつながる時代になれば、アームを核としてさらにグループを成長させることができるとの読みだ。

孫社長は、ロンドン証券取引所に上場するアームの時価総額に対し、43%もの金額を上乗せ(プレミアム)してアームの経営陣に買収を打診。わずか約2週間で交渉をまとめあげた。

 

その結果、アームの自己資本(約2500億円)に対し、約3兆500億円もののれんが発生。ソフトバンクでは13年7月の米携帯電話大手スプリント・ネクステル買収に伴って、14年3月期にのれんが1兆5300億円へ増加していたが、今回のアーム買収によってのれんの額は一気に約3倍の4兆5200億円へと拡大したことになる(図1)。

 

 ◇不調続いたスプリント

 

 ただ、のれんとは買収した企業の技術力やブランド価値など形のない資産であり、買収した企業の業績が低迷すれば、積み上がったのれんを減損処理しなければならない。こうしたのれんの減損損失は費用として損益計算書で計上し、当期純利益の減少要因となって株価や配当などにも影響する。

 

日本会計基準ではのれんは20年以内で定期的に償却するものの、ソフトバンクが13年3月期から移行した国際財務報告基準(IFRS)ではそうした規定はない。その代わり、毎年減損するかどうかのテストを実施するため、一時的に多額の減損損失が発生する可能性がある。

 

 実際、東芝は16年3月期、原発事業で2480億円の減損損失を計上したことなどを要因に、7000億円超の営業赤字に陥った。のれんが膨れ上がってしまえば、将来に発生する減損損失の余地も大きくなり、一転して赤字転落する可能性すら生じるのだ。

 

ただ、こうしたのれんの評価は専門家にも難しく、外部にとってはなおさらである。スプリントは14年10~12月、商標権など約2600億円を減損処理したが、ソフトバンクはスプリント全体としての価値は落ちていないと判断し、ソフトバンク連結での減損処理はしなかった。

 

東芝でも12、13年、買収した米原発大手ウェスチングハウス(WH)グループがのれんを減損処理したが、東芝連結では減損処理はしなかった。ソフトバンクグループは四半期ごとにアームやスプリントなど買収した子会社の業績を細かく開示していると説明。君和田和子・執行役員経理部長は「(のれんや減損の評価は)技術的にややこしいところだが、減損テストはきちんとしている。減損する場合には四半期決算で(買収した子会社の業績を)発表しているため、投資家は減損の兆候を認識することができるだろう」と話す(*特集では君和田氏のインタビュー掲載)。

 

ソフトバンクが16年9月末時点の貸借対照表に計上したスプリントののれんは2978億円。スプリントの業績は持ち直しの基調にあるものの、ソフトバンクの買収後は一時、営業赤字が続くなど低迷した。14年8月にはスプリントを通じて進めていたTモバイルUSの買収が、米市場の寡占を懸念した当局の反対によって頓挫するなど、当初の思い通りにはいっていない。アームが手がける半導体市場の変化は携帯電話市場よりいっそう速く、長期にわたる見通しはより不確実になる。

 

すべての買収先ののれんが一気にゼロになる可能性はきわめて低いとはいえ、のれんの減損はソフトバンクや株主にとって今後の大きな焦点になる。

 

◇キャッシュフローに要注目

 

ソフトバンクは基本的に事業でキャッシュを稼げている以上、のれんが自己資本を上回っていても問題はないとの考え方だ。

 

ソフトバンクの16年3月期連結決算によれば、連結のEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益、調整後)2兆4389億円のうち、国内通信事業が半分近くの1兆1633億円を稼ぎ出す。この国内通信事業は安定しており、ソフトバンク連結の営業キャッシュフロー(CF)も9400億円と高水準。借入金や社債の残高が、こうした潤沢な現金収入で十分に返済可能な範囲に収まっていれば、事業に大きな支障はないとの立場を示す。

ただ、ソフトバンクのフリーCF(営業CF+投資CF)はスプリント買収後、16年3月期まで4年連続のマイナス。M&Aなどに伴い、投資CFのマイナスが営業CFを大きく上回っているためで、16年9月中間でもアーム買収によってフリーCFは2兆1480億円の大幅なマイナスとなった。

 

ソフトバンクはフリーCFのマイナスを、融資や社債発行などで補っているが、孫社長は今年10月、返済余力を高めるため、数年かけて「純有利子負債(有利子負債-現預金)/EBITDA倍率」を3・5倍に引き下げる考えを表明、ソフトバンクグループの財務改善に向けて方針転換した(図2)。

 

ソフトバンクののれんが財務リスクと化すかは、アームの業績が左右する。そうしたアーム買収の成否を見るうえで重要な目安となるのが、ソフトバンクのCFの動向だ。ただ、ソフトバンクの営業CFはこれまで、資産規模の拡大ほどには伸びていない。アームの買収後、ソフトバンクの営業CFがもし減少し続けるようなことがあれば、のれんの減損処理とともに返済のリスクも高くなる。

 

BNPパリバ証券の中空麻奈チーフクレジットアナリストは「ソフトバンクが未来永劫(えいごう)、成功し続けられる理由はない。バランスシート(貸借対照表)をそろそろ良くすることを考えるべきではないか」と語る。

 

孫社長は今年10月、サウジアラビアの政府系ファンドなどから出資を受ける形で、総額10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」設立を発表した。ソフトバンクも2兆6000億円以上を出資し、ファンドでの債券発行なども通して企業に投資する方針を表明。12月6日には米次期大統領となるトランプ氏と会談し、ファンドから米市場へ500億ドル(約5兆7000億円)を投資する考えも示した。このファンドも今後、ソフトバンクの連結対象となる予定で、ソフトバンクの財務はさらに複雑化する。

(編集部)

掲載号:週刊エコノミスト2016年12月20日号


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