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天皇陛下の退位 一代限りの特別法提案へ 「皇位の安定性」損なう恐れ

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天皇陛下の退位について、「政府は2年後の2019年1月1日に皇太子さまが天皇に即位し、『平成』に代わる新しい元号とする検討に入った」と多くのメディアが報じた。政府は現在の天皇陛下に限った特例とする特別立法を、1月20日に召集する通常国会で提案するとみられる。

 

「皇位の安定性」が損なわれるとの指摘がある特別立法には反対意見があるなか、結論ありきで進める政府の方針に疑問の声が出ている。

 

 安倍晋三首相の私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」は、16年12月14日の会合で、議論に手間取れば高齢の陛下の退位時期が遅れる可能性を指摘した。

 

 時間がないことを理由にした特別立法ありきの流れについて、神道学者の高森明勅氏は「陛下を人質に取るような、大変失礼な進め方だ」と批判する。

 

特別立法による退位は政府の裁量が大きいため、「将来、恣意(しい)的あるいは強制的な退位につながる危険がある」と指摘。むしろ皇室典範改正による退位が望ましいと主張し、「後継者が成人している▽天皇本人の意思がある▽皇室会議による──などとすることで、恣意性の懸念は払拭(ふっしょく)できる」という。さらに「こうした議論はすぐにでも可能で、時間がかかるというのは言い訳だ」と話す。

 

 有識者会議の専門家ヒアリングに出席した今谷明・帝京大学特任教授は「生前退位についてはよほど慎重でなければならない」との立場。「緊急措置的に一代限りの特例法でというのはおかしい。法的な措置は与野党が一致するまで見送るのが相当だ」と既成事実化を批判し、法案提出は「時期尚早」と指摘した。

 

 また、ノンフィクション作家の保阪正康氏は、「特別立法での退位はやむをえないと思うが、採決にあたっては、付帯決議で将来的な皇室典範の改正を前提とするべきだ」と述べ、典範改正についても担保することを求めた。

 

 皇室典範改正に踏み込むと、女系天皇や女性宮家の議論を避けられないため、有識者会議は、当初から現在の天皇陛下に限った特例を「落としどころ」(全国紙政治部記者)としてきた。

 

 ところが、1月11日の会合では、23日に公表予定の「論点整理」について、(1)特別立法、(2)皇室典範に根拠規定を設けた特別立法、(3)皇室典範改正による退位の制度化の3案を例示した。民進党が制度の恒久化を求めており、「与野党一致を演出するための配慮」(全国紙政治部記者)とみられる。

 

 しかし、有識者会議座長代理の御厨貴・東京大名誉教授は、毎日新聞のインタビューなどで「今回は特別立法で対応することが良い」との認識を示している。

 

 高森氏は、有識者会議が典範改正に触れたことについて、世論調査で恒久的な制度を作るよう求める意見が強く、「特別立法だけで押し切ることは困難だと感じているためではないか」とみる。衆参両院の正副議長は1月16日、退位に関する国会の議論の進め方などについて協議する。高森氏は「環境が変わりつつある。どう議論を進めるか、国会の役割が重要だ」と指摘する。

 

 特別立法での退位は、「安定的な皇位継承」という天皇陛下の悩みに応えられない。政府は、天皇陛下のおことばに、正面から向き合うつもりはないのだろうか。

(酒井雅浩・編集部)

*『週刊エコノミスト』2017年1月24日号FLASH!掲載

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