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第43回 福島後の未来 今西章・『創・省・蓄エネルギー時報』編集次長=2017年1月31日号

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◇世界の電力投資の7割が再生エネ

◇環境金融が旧態の化石燃料を駆逐

 

再生可能エネルギーの導入が世界中で急拡大している。

 

 国際エネルギー機関(IEA)が2016年9月にまとめた世界のエネルギー投資に関する調査結果によれば、15年の再生エネに対する投資額は3130億ドル(約36兆円)に達した。石炭火力や原子力などを含めた発電設備全体への投資のうち、再生エネの割合は7割を占める。原発への投資額210億ドル(約2兆4000億円)の実に15倍だ。

 

 今や再生エネが世界のエネルギーの主役と言える状況だ。

 

 これに対し、日本は世界の潮流から取り残されている。15年の投資額は362億ドル(約4兆1000億円)と中国、米国に次ぎ世界3位だったものの、17年4月に予定される再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)の大幅な変更が再生エネ、特に太陽光発電の拡大機運に水を差すことになりそうだ。

 

 FITは電力会社や新電力が再生エネによって作り出した電力を一定の価格で買い取ることで、他の電源に比べて発電コストの高い再生エネの普及を促す狙いがある。買い取り費用は、電気料金に上乗せして国民から集める「賦課金」が原資だ。

 

 経済産業省が制度変更に乗り出したのは、再生エネの普及とともに増える賦課金が国民の負担につながる恐れがあると考えたためだ。そこで17年4月の改正では、電力の買い取りにあたって入札を実施したり、発電所の認定から一定期間内に稼働しなければFITで定めた有利な価格で電力を売買できなくしたりするなど事業者への引き締めを図る。

 

 日本の太陽光発電業界は岐路にある。東京商工リサーチによると、16年は太陽光発電関連企業の倒産が前年比20・4%増の65件に上り、調査を開始した00年以降で最多となった。負債総額も過去最高を更新し、同13・5%増の242億4100万円に上った。

 

 かつてはFITによって高い利益が望めることから参入企業が相次いだ太陽光発電市場だが、倒産件数の増加が示すように、今では企業の淘汰(とうた)が進む。17年4月のFITの大幅変更によって、こうした動きがさらに進む可能性がある。

 

 

 市場の変化に伴い、再生エネに対する見方も変わりつつある。「太陽光発電や風力発電は天候によって出力が変動する不安定な電源で、大量に導入するのは限界がある」など、日本では再生エネに対しマイナス面が強調される傾向があるように見える。

 

 ◇発電コストが低下

 

 しかし海外に目を向けると、様相は異なる。コストや出力の不安定性といった課題が解消に向かっている。

 

 まずコストは、普及が進んだことで設備や部材を大量生産できるようになり、量産効果によって低価格化が進んだ。

 

再生エネの普及促進を目指す国際機関、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州や中国、南アフリカ、米国における太陽光発電の一般的な発電コストは、1キロワット時当たり5~10セント(約5・7~11・4円)まで低下したという(図1)。15年の最低価格はメキシコの同4・8セントで、翌16年5月のアラブ首長国連邦(UAE)のドバイの太陽光発電の入札に至っては同3セント(約3・4円)だった。経産省が示した日本の原子力の発電コストの同10・1円、石炭火力の同12・3円、天然ガス火力の同13・7円に比べ圧倒的に安い(図2)。

 風力の発電コストも同様だ。

 

経産省が16年8月、風力発電の競争力強化を目指して設置した有識者の研究会は「(世界では)2010年頃からは、競争の激化、さらなる大型化、風力新興国でのコスト低減などにより、発電コストは再度低減傾向にある。例えば米国は、発電事業者と小売り電気事業者が契約する電力販売価格が14年には、2・35セント/キロワット時まで低減している」と分析している。

 

 出力の不安定性についても、欧米では蓄電池を導入することで発電出力を平準化したり、送電系統網を強化することで発電量が多くなった時の受け入れ能力を拡充したりすることで、乗り越えようとしている。

 

 加えて海外各国は、11年3月の東京電力福島第1原発事故を契機に、原発に代わる安全・安心で持続可能なエネルギーとして再生エネを改めて見直し、エネルギー政策の柱を再生エネにシフトしている。その原動力が、15年12月の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された地球温暖化対策に関する新たな国際ルール「パリ協定」だ。

 

 16年11月に発効したパリ協定は、産業革命前からの世界の平均気温の上昇を「2度未満」に抑える目標を掲げ、さらに「1・5度」に収めるよう努力すると明記した。地球温暖化対策に最も有効なエネルギーこそCO2を排出しない再生エネだ。

 

 ◇機関投資家も普及を後押し

 

 金融面の新たな動きがこうした機運に拍車を掛ける。「ESG投資」だ。従来の財務情報に表れない環境(Environment)や社会(Social)、コーポレートガバナンス(Governance)といった課題に取り組む姿勢が企業価値を左右するとの考え方に基づき、銘柄選定や株主提案などの投資行動に反映する投資手法だ。

 

 世界のESG投資は、パリ協定のほか、機関投資家に投資対象の温室効果ガス排出量の開示を求める国際誓約「モントリオール・カーボン・プレッジ」の策定などを契機に、民間の資産運用機関も積極的に取り組むようになってきた。

 

 特に海外を中心に、石炭や石油などの化石燃料産業に対し「ダイベストメント(投資撤退)」を宣言する投資家が急増している。ダイベストメントは非倫理的、非道徳的だと思われる企業の株式や債券、それらを組み込んだ投資信託などの投資をやめるもので、その対象に化石燃料関連企業を含める動きが広がっている。

 

 社会課題の解決に向けたインパクト投資に関する助言などを行う国際NPO「アラベラ・アドバイザーズ」によると、化石燃料産業へのダイベストメントを宣言した世界の投資家は14年9月の181機関、運用資産総額500億ドルから、16年2月の400機関、2・6兆ドルに増加した。

 

 注目は、数千億ドル規模の運用資産を持つスウェーデンや米カリフォルニア州の公的年金基金が次々とダイベストメントを宣言していることだ。欧州や米国の州の一部は温室効果ガスの排出量取引など先進的な環境規制を採用している。化石燃料産業へのダイベストメントは将来の事業性の観点から投資先を選ぶという意味で経済合理性もある。

 

 普及に向けて課題もある。地球温暖化に懐疑的で、シェールオイル・ガスや石炭産業の振興を奨励するドナルド・トランプ米大統領が就任したことで、「再生エネの導入が停滞しかねない」との懸念が生じている。しかし、心配には及ばない。再生エネはすでに他の電源と比べてもコスト面で優位に立ちつつあるためだ。すでに市場原理によって選ばれる電源に育っている。

(今西章、『創・省・蓄エネルギー時報』編集次長)

◇いまにし・あきら

 1975年群馬県太田市生まれ。慶応義塾大学文学部卒。IT系出版社の書籍編集者や経済誌編集記者などを経て2010年からエネルギージャーナル社勤務。日本環境ジャーナリストの会理事

*週刊エコノミスト2017年1月31日号掲載


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