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特集:電気代は税金となった 2017年2月7日号

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◇政府が繰り返す責任逃れ

◇際限なく増える国民負担

 

 東京電力福島第1原発の事故処理費用が膨張を続けている。

 

2016年12月、経済産業省は13年12月の見積もりである11兆円のほぼ2倍となる21・5兆円との試算を公表した。内訳は廃炉8兆円(13年は2兆円)、賠償7・9兆円(同5・4兆円)、除染4兆円(同2・5兆円)、中間貯蔵1・6兆円(同1・1兆円)(図1)。東電による費用負担がはるかに限界を超える中、政府は新たに国民に負担を求める「東電改革案」をぶち上げた。

 

「国民全体で福島を支える、需要家間の公平性を確保するといった観点から、託送制度を活用して広く負担を求める」

 

 16年12月にまとまった経産省の有識者会議「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)の提言には、このような文言が盛り込まれた。託送制度とは、電力会社が所有する送配電網を発電事業者や他の電力小売り事業者が利用することで、その利用料(託送料)は消費者が支払う電気料金に含まれている。

 

 経産省は賠償費7・9兆円のうち2・4兆円を「原発を保有する電力会社が事故に備えて積み立てておくべきだった」と主張。20年度から40年間、大手電力だけでなく、電力自由化で新規参入した新電力を含めた消費者が支払う託送料に上乗せして負担を求める方針を示す。経産省の試算で上乗せ額は1キロワット時当たり0・07円で、標準家庭で電気料金が月18円上がる計算になるという。

 

 賠償費の「過去分」のほか、福島第1原発以外で廃炉が決まっている関西電力美浜1・2号機など老朽原発6基の廃炉費用も託送料に上乗せされることになっている。今後、他の老朽原発の廃炉が決まれば、さらに上乗せ額が増えるのは確実だ。

 

 また、送配電にかかる人件費や修繕費が上がった時はもちろん、今後省エネ化が進んで電力の消費が減れば、送配電施設の維持費を賄えなくなり、元々の託送料自体が上がる可能性もある。

 

 経産省が今回、送配電に直接関係のない費用を託送料に上乗せするという「禁じ手」に至った背景には、制度上の理由がある。電力会社はこれまで、「総括原価方式」と呼ばれる仕組みで、かかったコストはすべて電気料金で回収できた。しかし、電力自由化でこの仕組みは廃止され、コストを自由に回収できなくなる。ただ、大手電力が持つ送配電網の使用料である託送料には総括原価方式が残るため、自由競争の下でも確実に費用を回収できるままだ。

 

 

 託送料は、送配電事業者である大手電力が費用を計算し、経産相の認可を得るが、国会審議を経る必要はない。今後、事故処理費用がさらに拡大すれば、コストを回収しやすい託送料が利用されかねない。

 

 

 ◇前例あった託送料上乗せ

 

 実は、送配電に関係のない費用が既に託送料に上乗せされて回収されている。それは、使用済み核燃料の再処理費用(バックエンド費用)だ。この時も、05年度の制度創設前から積み立てておくべきだった再処理費用を「過去分」として託送料に上乗せし、19年度までの15年間で消費者から回収することになった。

 

 経産省は賠償費用などの託送料上乗せを議論する有識者会合の場で、このバックエンド費用の制度を「前例」として説明している。超党派の国会議員で作る「原発ゼロの会」はバックエンド費用の制度創設時の議論を挙げ「『今回で最後』にするとして議論は終了した。この議論を託送料で回収することの前例として示しており悪質極まりない」と非難している。今後、今回の案が前例となり、他の費用も託送料に上乗せすることは十分に考えられる。

 

 最も可能性があるのは今回も託送料への上乗せが検討されていた福島事故の廃炉費用だ。現時点では東電が負担することになっているが、年間5000億円規模の資金を確保することが前提となっている。廃炉作業の準備段階の汚染水対策などで手間取っている現在でも、1次下請けには作業員1人当たり約10万円の日当を支払っているとされ、その場合、年間で数千億円のコストがかかることになる。今後、廃炉作業が本格化すれば、膨大な人件費が必要になる恐れがある。

◇見送られた法的整理

 

 そもそも、東電を存続させたまま負担を負わせようとしたことが、費用の膨張を招いた一番の原因だ。未曽有の事故の廃炉や賠償、除染などには莫大(ばくだい)な資金が必要なことは明らかだった。民間企業で手に負えないのは目に見えていたにもかかわらず、あやふやな根拠で算定して国費投入を見送った政府の責任は重い。

 

 11年の事故直後、東電を法的整理する案もあったが、銀行業界が「金融システム不安が起こる」と猛烈に反発。経産省の松永和夫事務次官が、全国銀行協会会長だった三井住友銀行の奥正之頭取(いずれも当時)に東電をつぶさないことを約束したとされる。政府が東電を法的整理して国有化すれば、事故処理は税金で賄うことになるため、財務省が反対だったことも影響した。

 

 その象徴とも言える対応が汚染水対策だ。事故直後から大量の地下水が原子炉建屋に流れ込み、高濃度汚染水が増加。地下の土を凍らせる「凍土遮水壁」の設置などが検討されたが、東電は債務超過を恐れ、東電の破綻を恐れた政府も当初は国費の投入を見送った。凍土遮水壁整備などへの国費投入を柱とする汚染水対策の発表は事故から2年半後だった。

 

 ある電力関係者は「東電がなくなれば、国策として原子力事業を進めてきた国が批判の対象となる。それを避けるために、東電を存続させる必要があった」と見る。東電委員会の伊藤邦雄委員長(一橋大学大学院特任教授)は「理屈上は納得いかない人もいるだろうが、国難を国民全員で解決していくことが必要だ」と述べたが、国難であれば、政府の責任の下で事故処理を進めるべきだ。国の保身のために、東電の法的整理は見送られてきた。

 

 その結果、事故処理費用は膨らみ、東電だけに負担させる枠組みの限界が露呈している。東電に残された道は法的整理しかない。国策として原発政策を進めてきた政府の責任の下で、福島事故処理を進める必要がある。その際、国民的な議論なしに電気料金を税金のように利用することは許されない。

(松本惇、藤沢壮、丸山仁見・編集部)

 

特集「電気代は税金となった」記事一覧

第1部 ずさんな原発事故処理 

政府が繰り返す責任逃れ 際限なくなる国民負担 ■松本 惇/藤沢 壮/丸山 仁見 

裏面にしか記載されない託送料

原子力事業再編というババ抜き

特殊な原発会計 原則に反する託送料上乗せ ■金森 絵里

インタビュー 河野 太郎 前消費者担当相 「福島事故処理に託送料充てる愚」

託送料の海外比較 ドイツに次いで高い日本 ■編集部

欧州の送配電事業 インセンティブ規制で効率化 ■安田 陽 

「原発安い」は幻想 甘い見積もりの経産省試算 ■大島 堅一

電力業界再編のジレンマ シナリオ描く経産省と東電 ■武田 純次

インタビュー 泉田 裕彦 前新潟県知事 「国民負担の説明は不十分」

東芝経営危機の真相 疑われるWECの管理能力 ■宗 敦司

期待外れのモジュール工法 ■佐藤 暁

再生可能エネルギー 低コスト化と普及拡大の好循環 ■高橋 洋

 

第2部 原発政策の虚像 

除染に国費投入 曖昧なままの国の責任 ■除本 理史

電力債 市場保護には格下げ必要 ■三浦 后美

優先して弁済される「一般担保付社債」

不透明な廃炉費用 8兆円に根拠なし ■野村 宗訓

原発保険 原発に経済合理性なし ■本間 照光

核燃料サイクル破綻 もんじゅ廃炉と実用化計画の矛盾 ■鈴木 達治郎

週刊エコノミスト 2017年2月7日号

特別定価:670円

発売日:2017年1月30日


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