◇ライフプランナーが保険の「出口」までお付き合い
Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── どんな生命保険会社ですか。
一谷 生命保険は目に見えないサービスを顧客に買ってもらうものです。私たちは、(1)どのような商品が良いのか顧客に基準をきちんと理解してもらい、(2)何が必要かを一緒に考え、(3)自らの意思で購入してもらっています。「入り口」である保険加入時はこの三つが一番大事です。
また、保険が実際にサービスを提供するのは「出口」である支払時です。万が一、何かあった時に、保険金の受け取り手続きから、何千万円もの保険金が入った場合、そのお金をどう残りの生活に生かしていくのか、税金をどうやって払うのか。この出口の部分も含めてサービスを提供する必要があります。この入り口から出口までを担当するのが「ライフプランナー」です。
── ライフプランナーの役割について詳しく教えてください。
一谷 保険は長い期間にわたる高い買い物なので、自分の掛けたコストが、実際のリスクに見合っているのか。顧客は内容をよく理解しないで高い買い物をしていると、「対価として何をくれるのか」という気持ちになります。入り口と出口の間には「保全」活動があります。保険加入時から契約者とは長い付き合いができるので、顧客のさまざまな環境変化に応じて、提案ができます。
例えば、20代、30代の若い時は高額の死亡保障、50代になれば介護保険に加入したり、あるいは死亡保障を少し減らして積み立てに回すなど。顧客の皆さんは、頭で理解できても、なかなか実行に移すことができません。それをライフプランナーが「見える化」します。顧客の生涯を通じて、ずっとサービスできる。それが我々の一番の強みです。
── ライフプランナーはどれくらいいるのですか。
一谷 3800人います。平均年齢は40歳を少し超えたくらいです。30歳前後で転職してくる人が多く、今50歳前後の人は当社で17~18年働いています。体を壊すなどのよほどの理由がない限り、あまり辞める人はいません。だから、顧客とともに年齢を重ねていくことができます。
── 現在、保険契約数は。
一谷 直近で349万件です。実際に加入している被保険者数は200万人を少し超えたところです。
── 契約者のアフターフォローは具体的にどのようにしているのですか。
一谷 契約者に1年から1年半の間隔で定期的に連絡をします。家族の状況や勤め先、収入などが変わっていないかを確認します。それによって、今の契約が十分に生活ニーズを満たしているのか、足りないようなら新たな提案をします。保険は時々見直した方がよいのです。このコミュニケーションが大事です。
◇採用にじっくり時間
── 実績を教えてください。
一谷 MDRT(Million Dollar Round Table)と呼ばれる国際的な保険営業の自己研さん組織があります。ここには卓越した専門家が加盟しています。当社は、1998年から19年連続で、国内生保の中で一番多く会員がいます。米市場調査会社のJDパワーの調査では、保険金請求の対応の満足度で2年連続1位です。保有保険件数は27期連続で増加しました。口コミも非常に大きい要素です。一人の担当から一家の担当、一家の担当から一族の担当になれると理想です。
── どのような採用と教育をしているのですか。
一谷 1年に600人近く採用します。当社は全国に営業所長が470人、支社長が120人います。総勢約600人のマネジャーで600人の指導や教育をしています。知識だけでなく、どのように顧客に信頼してもらい、自分をサービスの一環として受け入れてもらえるのか、というようなことです。
── 採用の際の基準は。
一谷 リクルート活動は会社の肝です。会社の価値観に合った人、基礎能力の高い人、人として間違いがない人をどれだけ社員として採用できるかが重要です。まだ前の会社に在籍している時点で、1回2時間を3回、計6時間掛けて、当社が何を目指しているのか、当社に来るとどんな可能性が広がるのか、講習をしています。この仕事を理解してもらい、その上でアプローチしてきた人を面接しています。この採用のプロセスが2カ月間あります。
── このマイナス金利時代にどのような運用をしているのですか。
一谷 終身保険をはじめとする長いお金を預かっています。だから、負債に資産をマッチさせた運用をしています。20~30年の国債や社債で運用しています。予定利率を下回らないようにしています。外貨建ての商品は米国の親会社の資産運用のノウハウを活用して、再保険に出しています。広告宣伝費は、ほとんど使っていません。
── 最近力を入れている商品やサービスは。
一谷 2015年の秋から生命保険信託を開始しました。両親が亡くなった場合、お子さんへの保険金を大切に預かるためです。過去には預かった保険金を親戚が借金の返済に使ってしまうケースがありました。そこで、亡くなった方の意思に沿った形で保険金が安全に使われる方法を考えたのです。この1年間で200件くらい新規で預かりました。一番多かったのは母子家庭の母親が自分に万が一があった場合を考えて、契約するケースです。
(構成=稲留正英・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A まさに、営業所長としてリクルーター、トレーナーの毎日を過ごしていました。会社のビジネスモデルを熱く語り、来る日も来る日も良い人を探していました。
Q 「私を変えた本」は
A 歴史小説が好きです。小村寿太郎を主人公にした吉村昭さんの『ポーツマスの旗』です。
Q 休日の過ごし方
A 朝ご飯に自分で作ったみそ汁を飲みながら、好きなジャズを聴いています。
………………………………………………………………………………………………………
■人物略歴
◇いちたに・しょういちろう
1958年生まれ。兵庫県出身。大阪教育大学付属高校、関西学院大学経済学部卒業。91年プルデンシャル生命保険入社。2008年執行役員、12年取締役執行役員専務、13年から現職。58歳。
………………………………………………………………………………………………………
事業内容:生命保険業
本社所在地:東京都千代田区
設立:1987年10月
資本金:290億円
従業員数:5197人(2015年度末)
業績(2015年度)
経常収益:8920億円
当期純利益:107億円