◇生活を下支えする便利な存在に
Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── コンビニエンスストアは年々進化しています。
竹増 かつてコンビニは「しょうゆが切れた」「マヨネーズがない」という場合の緊急購買の場でした。お客様も「少し高いけど、緊急だから仕方がないか」という気持ちがあったのでは。今は、毎日足を運んでくれるお客様も多く、夕方や夜間の来店も増えています。ローソンは日常で使っていただける店を目指し、卵や牛乳などの食品、調味料、日用品等の約90品目を、スーパーマーケットやドラッグストア等の市場動向に合わせて、価格を見直しています。
── 目指すべきコンビニの姿は。
竹増 コンビニでは、物販以外にも、公共料金支払いや、ATM(現金自動受払機)などを通じてとても大きな額のマネーが通過します。これは、金融を介してさまざまなサービスを提供できることを意味します。金融に限ったことではありません。ローソンでは、一部の地方自治体の住民票交付も手がけています。金融や行政も合わせることで「ローソンは便利だね、効率的だね」「ローソンにさえ寄れば何でもできる」と言われる店を目指します。そうすることで、生活を全て下支えするような存在になれるのではないでしょうか。
── 2017年度(18年2月期)の経営計画は。
竹増 連結営業利益は前年比52億円減の685億円と計画しています。前の期まで14年連続増益でしたが、減益計画となっています。これは、本業のコンビニエンス事業では60億円の増収を見込む一方で、(1)POS(販売時点情報管理)などのシステム更新(2)金融やヘルスケアなどの新規事業(3)業務提携先のセーブオン・スリーエフからの看板替え、などの成長分野への投資を積み増すからです。本業の商売力は弱めずに、将来の投資をしっかりする足場固めの期間と位置づけます。
── 新規事業のうち金融事業の進捗(しんちょく)は。
竹増 現在は銀行免許は持たずに、共同ATMを管理・運営しています。次のチャンレンジは、この基盤をベースに銀行免許を持った金融ビジネスに参入することです。現在、ローソンバンク設立準備株式会社を設置して、関係当局の許認可等を前提に、銀行の設立準備を進めています。
── 日販(1店当たりの1日当たり売上高)はセブン─イレブン65万円に対して、54万円にとどまります。
竹増 留意しなければいけないのは、都心のど真ん中にある店舗は、日販が高いが、家賃も高いことです。ただ、セブンさんの粗利益率は高い。見習わないといけません。
── 店舗数では「セブン─イレブン」「ユニー・ファミリーマート」に次いで3位です。17年度の出店計画は。
竹増 出店1400店、閉店500店を見込みます。出店1400店の内訳は、提携先の「スリーエフ」「セーブオン」店舗の看板替え400店▽通常出店1000店です。
── ずいぶん多いですね。
竹増 16年度の出店実績は1055店でしたから前年比増です。かつて、大量出店を試みてうまくいかなかったことがあります。しかし、今回は「前始末(まえしまつ)」をきちんとしており、過去の失敗とは違うという感触があります。加盟店やオーナーには本部から「スーパーバイザー」が派遣されて、在庫管理や接客などの経営指導に当たります。このスーパーバイザーを、数年前の採用段階からある程度の人数を採用して育ててきました。
◇商事と生産性を向上
── 今年2月に、三菱商事がローソンを完全子会社化しました。
竹増 完全子会社化のメリットを出すも出さないも僕らローソン次第です。消費の最前線に立つ僕らが「今の市場はこう動いています」と確信を持って、新たなビジネス提案をしなければなりません。その時点で初めて、いかに三菱商事グループの力を活用するかという段階になります。逆に三菱商事から「こんな原料、食品があるぞ」と言われても、ローソンの感性と合わないと、原料調達から製品出荷に至るまでの「サプライチェーン」は機能しないでしょう。僕が三菱商事に入社した頃の、出資先に対する果実の取り方とは違ってきています。
── それ以外でのメリットは?
竹増 黎明(れいめい)期のコンビニは、1店舗1オーナーが基本路線でした。しかし、今のローソンは1人で複数店を担う多店舗経営型を進めています。また、物流面の効率化も課題となっています。こうした経営面や物流面での問題に対して、三菱商事と共に無駄を排除して、店の生産性を高める対策を一緒になってやっていきたいです。
── 5月には玉塚元一・会長兼CEOが退任しました。
竹増 玉塚さんは退任を明らかにした会見で「(竹増社長に権限を集中する)1頭体制の方がスピード感があっていい」と言っていました。玉塚さんはある兆しを感じていたのではないでしょうか。それは「この案件は玉塚会長に報告しようか」「この案件は竹増社長に報告するか」「いや、この案件は二人共に報告しないと」という大企業的な2頭体制への兆しです。実際にはこのような状態には陥っていませんが、玉塚さんが感じていたのはその兆しではないでしょうか。玉塚さんは別の業界に行きましたが(IT会社「ハーツユナイテッド」社長に就任予定)、これからもローソンの兄貴分だと思い続けます。
(構成=種市房子・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 3年間、三菱商事から米国の豚肉処理・加工品製造会社へCEO(最高経営責任者)補佐として出向して日本や米国向けの豚肉の生産・販売を担当しました。また、「経営とは何か?」を学びました。食肉にも詳しいですよ。
Q 「私を変えた本」は
A 司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』です。
Q 休日の過ごし方
A 趣味の釣りをして、釣った魚を刺し身やイタリアンで調理して、家族に振る舞うのが楽しみです。
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■人物略歴
◇たけます・さだのぶ
大阪府出身。大阪教育大附属高池田校舎、大阪大経済学部卒業。1993年、三菱商事入社。グループの米国豚肉処理・加工品製造会社や三菱商事社長秘書を経て、2014年ローソン副社長。16年6月から現職。47歳。
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事業内容:コンビニエンスストア
本社所在地:東京都品川区
設立:1975年4月
資本金:585億円(2017年2月時点)
従業員数:9403人(17年2月時点、連結)
業績(16年度連結)
経常利益:730億円
当期利益:364億円