Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── サービスの柱は何ですか。
根元 BtoB(企業向け)のビジネス系ソフトウエアと組み込みソフトです。比率はビジネス系が8に対し、組み込みが2です。ビジネス系ソフトの半分は銀行や保険会社など金融向けが占めます。残り半分は、物流、旅行、人材、サービス、公共事業など多様な業種が顧客です。一方、組み込みソフトはスマートフォン、デジタルカメラ向けが多いです。
クレスコは顧客ごとに最適なIT(情報技術)システムを構築し提供する「システムインテグレーター」だ。創業は1988年、朝日ビジネスコンサルタント(現・富士ソフト)から独立したベンチャー2社が合併して誕生。当時は汎用(はんよう)コンピューター上で動くミドルソフトウエア(制御系ソフト)やカーオーディオなどへの組み込みソフトから出発したが、IT市場拡大の波に乗り事業規模を広げた。現在はIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)など新技術も得意としている。社名はラテン語で「成長する」の意。
── 足元の業績は。
根元 ここ数年は増収増益傾向です。日本企業のIT投資は増えています。製造業も「金型よりもソフト」と意識が変わりました。「RPA(ロボットによる業務自動化)」関係のソフトの需要も増えています。
── 会社の強みは。
根元 新しい技術分野に飛び込める文化があることです。チャレンジ精神とも言えます。AI、IoT、クラウドといった新しい技術に、同業他社より1、2年先に取り組んできました。ここ数年は先端技術研究・開発活動の支援と促進を目指した「技術研究所」を社内に設置し、その成果を実際のビジネスへ導入・運用するための「先端技術事業部」を発足させました。
── AIの導入事例は。
根元 人材派遣会社フォーラムエンジニアリング向けに、IBMのAI「Watson(ワトソン)」を活用した人材マッチングシステムを構築しました。
人材業界では雇用のミスマッチ解消が課題です。そこで、企業の求人情報と求職者のさまざまなデータをAIに学習させ、最適な組み合わせを探す仕組みを作りました。このシステムは、ワトソンの活用事例のうち、世界で十指に入る成功例としてIBMから認定されました。
── 新技術で先行できる理由は。
根元 顧客のビジネスの知識を持つことと、新技術に強い企業や研究機関との連携が重要です。例えば、当社はフォーラムエンジニアリングと10年以上の取引実績があり、同社の業務を熟知しています。それがなければAIの使い道も見いだせません。さらにIBMの営業担当も連れて行って顧客が必要とするシステムをトータルで提供しました。ビジネスの仕掛けづくりは、システムインテグレーターが活躍できる領域です。
最近はオープンソース(無償)のAIを使い、目の病気を早期発見するための画像診断システムを、名古屋市立大と共同開発しました。網膜には目の病気の兆候が表れます。熟練の医師でないと診断が難しいのですが、同システムは網膜の中心を撮影した大量の画像をAIに学習させることで病気の兆候を高い確率で見つけ、眼科医の診断を補助します。今後は制度的な課題をクリアし、早期の商用化を目指します。
◇トップの顔を見せる
── IT分野で信頼を得るには。
根元 新技術と既存の古い技術、両面で確実に仕事をやり遂げることです。例えば金融系や航空系のシステムは品質問題が起きると社会的な影響が大きいので、古くても安定したシステムで動かします。これらのビジネスは地味ですが重要です。
また、私は特別な用事がなくても顧客を訪れ、当社の考え方を自分の口から直接伝えるようにしています。トップの顔を見せると大きな仕事も安心して任せてもらえます。
もう一つは、年間約800プロジェクトの月次業務報告書に目を通し、現場の状況把握に努めています。報告書は、問題の原因や顧客の課題を知る有用な情報ソースです。
── M&A(合併・買収)は。
根元 IT企業に限定して行っています。2016年9月にJAグループ傘下の農協観光のシステム子会社「エヌシステム」を買収しました。旅行業界向けのIT市場はパイが大きいとは言えませんが、同社を買収したことで専門性が高まりました。
M&Aを行った後は、シナジー(相乗効果)を高めグループ全体の価値を上げる必要があります。例えば、現在10社ある子会社から、「AIで何かやりたい」といった声が上がることもあります。そこでグループ事業推進本部の下で横断的に研究・開発する仕組みを整えました。
── 人材確保はどうですか。
根元 人手不足で人材の採用は苦戦しています。そこで海外にも目を向け、数年前からベトナムの企業に仕事を出しています。これが定着してきたので4月に駐在員事務所を設置しました。うまくいけば支店や現地法人をつくることも可能です。
── 今後の成長に向けた施策は。
根元 顧客が注目している分野で、多様なサービスを出し続けることです。これは新規顧客の開拓につながります。大手企業の多くは発注するIT企業が決まっています。そこに参戦するには、他社ができないものを提供しなければなりません。そのために地道な努力を重ね、常に半歩進んだITサービスを提供したいです。
(構成=大堀達也・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A ソフト開発のプロジェクトマネジャーでした。いわゆる「モーレツ社員」で、家に帰らず仮眠室に寝泊まりしたことも度々でした。現場の苦労はよく分かります。
Q 「私を変えた本」は
A よく読むのは司馬遼太郎です。『翔ぶが如く』や『峠』で描かれた人間模様に引かれます。
Q 休日の過ごし方
A 顧客とのゴルフや、ウオーキングを楽しんでいます。
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■人物略歴
◇ねもと・ひろゆき
1960年生まれ。北海道立苫小牧東高校、北海道大学大学院卒業後、84年朝日ビジネスコンサルタント(現・富士ソフト)入社。87年メディアリサーチ入社。88年クレスコ入社、2006年取締役。常務取締役などを経て14年4月社長就任。57歳。
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事業内容:ソフトウエア開発
本社所在地:東京都港区
設立:1988年
資本金:25億1487万円(連結)
従業員数:1904人(連結)
業績(2017年3月期・連結)
売上高:308億9300万円
営業利益:27億700万円