
Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── 社名には「食品」が付きます。どんな事業をしていますか。
小郷 サントリーグループは酒類からスタートしましたが、多角化の一環として1930年代に濃縮リンゴジュースを売り出しました。70~80年代には「サントリーウーロン茶」などを世に送り出し、飲料事業をグループの中核事業に育成しました。その飲料事業を切り出して、上場・独立したのが当社です。
── 主力商品は。
小郷 「南アルプスの天然水」と、缶コーヒー「ボス」でそれぞれ売り上げの約2割を占めます。
── 最近の動向は。
小郷 国内販売実績では1992年から24年連続で前年超えを達成しており、2016年は4億3000万ケースに達しました。今年も4億3300万ケースを見込んでいます。13年には上場も果たし、現在はグループの純利益の半分を稼ぐ中核会社に育ちました。グループ内を歴史的に見ると、祖業であるウイスキー・ワインなどの洋酒は長男、ビールは次男、そして我々清涼飲料が三男です。当初は「お荷物三男坊」と呼ばれていましたが、今は「よくできた三男坊」とも言われます。
── 人口減の中で24年連続で前年超えを達成できた理由は。
小郷 清涼飲料市場全体は年間1~3%伸びています。たとえば会議で出るお茶は、急須から入れるのではなくペットボトルになりました。1人当たりの清涼飲料水消費は増えているのです。この状況で当社が一貫して市場よりも高い成長率を達成できたのは、緑茶、ミネラル水、缶コーヒーなどの各分野で少なくとも2位以内に入れるよう、ブランドの開発・育成をしてきたからです。
── そのため必要なことは。
小郷 まずは、ウーロン茶のような新たな市場を創るような革新的な商品を生み出すことです。30年前は緑茶や麦茶を買うことなど考えられませんでしたが、今や市場が確立しました。今後は、無糖など「ナチュラルでヘルシーな」志向に訴える商品も有望です。築いたブランドを時代の流れに合わせて絶えず刷新することも必要です。
── 国内事業全体の成長に必要なことは。
小郷 中身や容器、容量のバラエティーをそろえる、つまり幅広いポートフォリオを持つことです。二つ目は消費者が欲しい時に、いつでもどこでも簡単に手に入る「利便性」の実現です。喉がかわいた方がすぐに手に入る場所に当社の製品が無ければ、商売は不戦敗となります。
── 自動販売機事業の戦略は。
小郷 全国の飲料自販機は240万台強、コンビニエンスストアは約5万5000店と言われています。その中で当社は全国に約55万台の飲料自販機を保有しています。さらに給茶機やカップ用も加えると70万台以上になります。15年には日本たばこ産業(JT)からジャパンビバレッジホールディングス(JB)を買収しました。
── JB買収による効果は。
小郷 国内では、屋外にある自販機は飽和状態ですので、今後はオフィス・工場などの屋内市場開拓を目指します。JBは、サントリーの飲料を売る手段ではありません。地権者の要望に添って、他社ブランドの自販機、あるいは複数社の飲料をミックスした自販機、あるいは給茶機、カップ用機を設置するビジネスで、総合飲料サービス事業と言えます。
── 海外戦略は。
小郷 営業利益の約半分を海外事業で稼いでいます。世界ナンバーワンの飲料メーカーは、味もブランドも世界で統一しています。しかし、当社は海外拠点で「『ボス』を売れ」「『伊右衛門』(緑茶)を売れ」と発破をかけるのではなく、買収先のブランドを維持しつつ、得意とする無糖など健康志向の技術を入れます。世界的にも健康志向は広がっており、当社には商機と見ています。
◇M&A 外部に任せず
── 今後のM&A(合併・買収)戦略は。
小郷 オランジーナのようにブランドや流通販路が確立していることが前提です。地域で見れば、人口が多く、暑くてかつ若い人が増加している国・地域を狙っていきます。
── 日本企業のM&Aでは失敗が目立ちます。
小郷 デューデリジェンス(事前調査)を外部任せにせず、自分の目で見て判断して、想定額が一定ラインを超えたら諦めるようにしています。飲料は身近で手軽な商品なので、その市場や工場を見れば大体のことは分かります。
── 社長として心がけていることは。
小郷 消費者に接している現場に権限を与える「主権在現場」です。たとえば、自販機のルートマンは毎日商品を入れ替えており「学校ではこの商品が売れる」「最近あの商品が売れているな」という動向を肌で感じているのです。「やってみなはれ」(創業者・鳥井信治郎の口癖)の精神も大切にしています。
── どういうことですか。
小郷 「やってみなはれ」は「失敗から学びながら市場や顧客の真実に一歩ずつ近づくこと」と思っています。私も現場のたたき上げで山ほど失敗してきました。そのおかげで、社長になれました。今でこそ認知されている「伊右衛門」「ボス」の前には、緑茶や缶コーヒーの失敗作がたくさんありました。二度の失敗ぐらいでは足りません。成功するまで山ほど失敗することが必要です。
(構成=種市房子・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 主にウイスキーの営業や宣伝の仕事を手がけました。思うように売れない、宣伝効果が出ないという失敗を何度も経験しました。その、やんちゃな体験が今につながっています。
Q 「私を変えた本」は
A 『マーケティング発想法』(セオドア・レビット著)。マーケティングの仕事の駆け出しの頃読みました。目から鱗(うろこ)が落ちました。
Q 休日の過ごし方
A 関西人なので「お笑い」を楽しんでいます。あとはお好み焼きと阪神タイガースです。
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■人物略歴
◇こごう・さぶろう
1954年、大阪市生まれ。大阪教育大付属高校池田校舎、京都大法学部卒。77年サントリー(現・サントリーホールディングス)入社。マーケティングや宣伝企画畑を歩み、2011年サントリー食品インターナショナル専務。副社長を経て16年3月から現職。62歳。
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事業内容:食品飲料事業
本社所在地:東京都中央区
設立:2009年
資本金:1683億円
従業員数:2万3850人(16年12月現在、連結)
業績(16年12月期、連結)
売上高:1兆4108億円
営業利益:935億円