Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── 設立5年で従業員が約350人と急成長中です。そもそもフリーはどんな会社ですか。
佐々木 中小企業のバックオフィス(間接部門)業務を、クラウド(インターネット上)で自動化するソフトウエアを提供しています。特に、経理と人事労務の二つに注力しています。経理の業務は、5分の1から50分の1に軽減できます。
── どう軽減するのですか。
佐々木 当社が提供するクラウド会計ソフトは、クレジットカードの利用明細やインターネット銀行の明細などから必要事項を抽出して、人工知能(AI)を使って自動で会計帳簿を作ることができます。例えば、明細に「ソフトバンク」とあれば「通信費」に、居酒屋の名前なら「交際費」などに自動で分類できます。他にも、飲食店であれば自社の売り上げデータを連携させることもできます。
請求書の管理もできます。発行だけでなく、入金まで追って管理ができたり、受け取った請求書の入金について期日までに自動で支払うこともできます。
使う企業にとっては、気がついたら帳簿ができている仕組みで、いつでも経営が見える化ができます。
── 顧客は何社ありますか。
佐々木 個人事業主を含めて80万事業者が使っています。料金は、個人事業主向けの確定申告を簡単にするサービスは月980円(税抜き)から、会社向けの会計ソフトは月1980円(税抜き)からなどのプランがあります。500~1000人規模の企業でも使えるようにしています。
── なぜ急拡大できたのですか。
佐々木 口コミが大きかったです。最初は、個人事業主や小規模法人を中心に広がりました。インターネットで当社のサービスを見つけてくれ、拡大の原動力となりました。
我々がクラウド会計ソフトを開発した当初の会計業界は、新規参入者はおらず約30年間変わっていない業界でした。ですが、クラウド会計ソフトを実際に作ってみると、世の中の人に受け入れられました。これが僕たちの原点になっています。
◇グーグルで学んだこと
── なぜ会計業界で起業したのですか。
佐々木 以前ベンチャー企業でCFO(最高財務責任者)を経験して、手入力が必要なことが多く、すごく非効率でした。それを問題意識として持っていて、その解決方法もイメージしていました。このサービスで従来の経理業務が50分の1にできるのを自分自身で感じていました。
経理はあらゆるビジネスで必要な部門です。これをインターネットで誰でも簡単にできるという時代を作れると思いました。
── グーグル日本法人での経験はどう生きていますか。
佐々木 28歳でグーグルに転職し、中小企業にインターネット広告を広げる活動をしていました。ある会合で、グーグル本社の幹部が「会社は運動(ムーブメント)だ」と言っていたことには、とても感銘を受けました。それまでの日本企業の価値観にありそうでなかった考え方で、これを実践する企業を日本でも作れたらと思いました。そうした感覚を覚えられたのが大きかったです。
フリーは未上場の企業だが、ベンチャーキャピタルの米DCM、リクルートホールディングス、未来創生ファンド(トヨタ自動車と三井住友銀行が出資)などが出資する。投資家が評価する時価総額は、すでに400億円を超えるとも言われる。一方、クラウド会計ソフト市場を見ると、フリーは40%近いシェアを持つ。それを「弥生会計」の弥生や、9月29日に上場予定のベンチャー企業・マネーフォワードが追い、競争は激しい。
◇銀行融資を簡単に
── 銀行や信用組合などと業務提携を進めています。狙いは。
佐々木 合計20の金融機関と提携しています。いずれは当社のサービスのなかで融資を完結できるような世界を目指しています。
当社のユーザー(顧客)にとっては、より良い条件で融資を受けられ、提出する書類も減らすことができます。その一方で、金融機関にとっては審査にかける時間が減り、融資先の経営に関わる助言にもっと時間をかけることができます。
── 銀行の審査部が必要ない時代が来るのでしょうか。
佐々木 そういう時代が来るかもしれません。企業の資金繰りは、過去の経営データを基にするので、自動化されるのではないでしょうか。
── 今後、フリーが目指す世界は。
佐々木 日本の中小企業を世界的に見ても競争力のあるものにしていかなくてはいけません。従業員全員が英語を話すという意味ではなく、ビジネスの仕方や生産性の面で世界のレベルについていくということです。中小企業の方が、よりスマートで、強い会社になれる仕組みを提供し、そうした中小企業のプラットフォーム(土台)になっていきます。
── 上場の予定は。
佐々木 今年から手続きを始めましたが、いつかは言えません。ただ、当社は米国系のベンチャーキャピタルからも出資を受けているため、早期の上場は必要ありません。
未上場の期間をうまく利用して、盤石なビジネス基盤を作っていかないといけないと思っています。良い例になって道を広げて、自分で流れを変えていきたいです。
(構成=谷口健・編集部)
◇横顔
Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 広告代理店、投資ファンド、ベンチャー企業と転職していました。28歳でグーグル日本法人に入りました。
Q 「私を変えた本」は
A 米国人作家のパトリック・レンシオーニ氏の『あなたのチームは、機能してますか?』(翔泳社)です。読みやすく書かれた本で、社内での課題図書にしています。
Q 休日の過ごし方
A 走ったり、子供と遊んだりしています。
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◇ささき・だいすけ
1980年生まれ。開成高校、一橋大学商学部卒。博報堂や投資ファンドを経て、IT企業のALBERTで執行役員兼CFO(最高財務責任者)。その後、グーグル日本法人で中小企業向けマーケティングに従事。2012年7月、フリーを設立。37歳。
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事業内容:クラウド会計ソフト、クラウド給与管理ソフトなどの開発・運営
本社所在地:東京都品川区
設立:2012年7月
資本金:96億円(資本準備金含む)
従業員数:約350人
業績
売上高:非公表