オールドメディアの代表格とされる出版社のウェブ戦略ほど「不毛なものはない」と言われる。もともと紙とインターネットは、二律背反のようなものだからだ。
週刊誌など雑誌メディアは年々、広告の売り上げをインターネットメディアに食われ続け、スマホの登場でサクサクサクと片手でヤフーニュースなどの記事を読める時代となり、どこも雑誌の売り上げ減になかなか歯止めがかからない状態が続いている。
記者としての大部分を新聞や雑誌で過ごし、オールドメディアに属する私だが、この4月から朝日新聞出版が運営するネットメディア「AERAdot.」と「週刊朝日」という二律背反の世界を行き来することになった。なぜかというと、売り上げ減を補う稼ぎを考えろといわれ、雑誌とネット編集部を一体化して効率よく稼ぐという新規事業を会社に提案。「じゃあ、やって」となったのだが、悪戦苦闘の連続だった。
「週刊朝日」は今年で創刊95周年という日本最古の週刊誌。一方の「AERAdot.」(旧名dot.)はこの10月に5周年を迎えたばかりのネットメディアで、「週刊朝日」「AERA」からの記事を一部転載したり、オンライン限定の芸能、スポーツ記事を細々と配信したりしていた。
紙とデジタルでは文化も違い、両編集部はほとんど交流もなかった上、サイトを立ち上げた先代の編集長は昨秋、早期退職。跡を引き継ぐ形で、残された2人のデジタル部員に記事登録、ネット配信のやり方などを教えてもらいながら、「AERA」から新たに加わった編集部員と、「いい病院ランキング」「大学ランキング」など新たな企画やカンニング竹山さんのコラムといったオンライン限定の記事を増やすなどサイトのリニューアルに取り組んだ。
◇ネットで読めると売れない?
PV(ページビュー、サイトがどのくらい閲覧されているかを測る指標で、獲得できる広告の目安となる)稼ぎに一喜一憂する毎日が続く。
ニュースサイトの運営方法は、大きく分けて会員制有料型、無料広告型になるが、「AERAdot.」は後者なので、PVが減れば、連動して広告も減り、たちまちマネタイズが難しくなる。
世帯の小さい出版社で会員型、無料型のどちらがいいか、という結論はまだ出ていないが、無料型の場合、配信した記事がヤフーなど多媒体へ飛んで拡散し、今現在どれぐらいの人に読まれているか、瞬時にわかる。千から万へと爆発的に数字が伸びていく様子もスマホなどで見ることができ、そのスリリングさは病みつきになる。
同時に、毎週火曜日に出る「週刊朝日」のデスクとして先の総選挙など政治、ニュースなどの特集記事のゲラを回し、毎号の雑誌の売り上げを聞かされては、一喜一憂する日々も送る。
当初は週刊誌の記事の一部をネットに出せば、売れなくなると怒られ、PVと雑誌の売り上げのどちらを優先すべきかと悶々(もんもん)とすることもあった。
しかし、ネットと紙では読者層が基本的に違う。記事がネット上で読まれるようになると、相乗効果で雑誌も売れ、手応えを感じた記者たちがネット限定記事を積極的に出してくれるようになり、何とか6月には月間7780万PVを獲得するなど、この半年平均でPVを以前の2倍以上に伸ばすことができた。
二足のわらじを履き、新旧メディアの特徴やスピード感の違いを毎日、観察しながら、この落差にこそ、実は共存共栄で稼ぐヒントがある──。そんな確信を強めている。
森下香枝・AERAdot.編集長
もりした・かえ◇1970年生まれ。「週刊文春」記者を経て2004年、朝日新聞入社。東京社会部記者を経て「週刊朝日」記者、副編集長。17年4月より「週刊朝日」と兼務で現職。著書に『グリコ・森永事件「最終報告」真犯人』など。
*週刊エコノミスト2017年11月7日号掲載