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特集:爆走EV 2017年11月14日号

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 10月24日開幕した東京モーターショーで、自動車メーカーの多くが派手なデザインのコンセプトカー(試作車)を競う中、地味なデザインながら専門家の目を引いたのが、独フォルクスワーゲン(VW)が12月に市場投入するEV「e─ゴルフ」だ。

 

 ゴルフは同社の人気モデル。日本にもユーザーが多い。e―ゴルフを最前面に展示したVWの姿勢からは、同社のEVにかける「本気度」がうかがえた。

 

 ◇中国でVWと日産が激突!

 

 そんなVWが攻勢をかけているのが世界一の自動車大国、中国だ。年間400万台のVW車が売れる“ドル箱”市場である。

 中国の自動車販売台数は、2800万台。しかも、中国ではこれからマイカー購入意欲が高い中間所得層が急増中だ。

 

 可処分所得が1万ドルを超える世帯が2016年の1億3500万人(全体の10%)から、30年前後には4億4000万人(同35%)に拡大し、この層が買う最初の1台は、購入補助金など国策の後押しも加わることで、低価格EVになる可能性が高い。

 

 中国政府は9月末、「乗用車企業の燃費規制及びNEV(新エネルギー車)規制」を打ち出した。NEVはEVやプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)である。19年から年間生産・輸入台数に占めるNEVの割合を10%とするよう罰則付きで義務付けた。

 

 VWは、EVに今後5年で60億ユーロ(約8000億円)を投資する計画だ。25年のEVの世界販売目標を300万台と定め、その半分の150万台を中国で売るとしている。30年までにVWグループの全車種をEV化する方針だ。VWは8月、中国自動車大手の安徽江淮汽車(JAC)とEV合弁会社設立を発表した。

 

 VWと、中国で直接、激突するのが日産自動車・ルノー連合だ。中国自動車大手「東風汽車集団」と合弁でEV開発の新会社「eGT・ニュー・エナジー・オートモーティブ(eGT)」の設立を発表。19年から東風の工場で生産を始める計画だ。特に累計生産が50万台を突破したEV「リーフ」を持つ日産の開発能力に期待がかかる。

 普及が見込まれる低価格EVでは、中国BYDはじめ地場メーカーがリードしている。16年のEV販売24万台のほどんどが中国車で、VWや日産も甘く見ていては割って入れないだろう。中国の巨大なEV需要の取り込みを狙い、開発合戦の激化は必至だ。

 

 ◇米国はテスラ包囲網

 

 中国と並ぶ巨大市場は16年の自動車販売台数が1700万台の米国だ。狙うのはダイムラーとBMWのドイツ勢。米国向けEVは中国と違い高級モデルが主戦場となる。この領域には、すでにテスラという先行開拓者がいる。テスラは、今年上半期だけで米国を中心に4万7000台を販売、高級EVでブランドを築いている。7月には最新の「モデル3」を投入し、欧州勢を引き離しにかかる。

 

 ダイムラーは主力の米アラバマ州の工場に10億ドル(約1000億円)を投じ、22年までにEV10車種を投入する計画を発表。BMWは主力の「iシリーズ」でEVモデルを投入済み。得意の高級スポーツ車では新型「i8」で“打倒テスラ”を目指す。独3強はいずれもEV専用のプラットフォーム(車体基盤)の開発を開始するなど、EVに本腰を入れている。

 

 米国の自動車大手も、EVで反撃の狼煙(のろし)を上げた。ゼネラル・モーターズ(GM)は「シボレー」ブランドのEV「ボルト」を投入済み。23年までにEV、FCV合わせ23車種を販売する。

 

 19年後半に小型EV「フォーカス」を投入予定のフォードは、20年までにEV関連で45億ドル(約4500億円)の巨額投資を行うと発表した。フォードは中国でもフォーカスを生産し、25年までに中国での販売比率を7割まで引き上げるとしている。

 

 米国で自動車規制を主導しているのはカリフォルニア州だ。走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション車(ZEV)の販売をメーカーに課す「ZEV規制」を18年から強化した。しかも、ZEVには通常のハイブリッド車(HV)は含まれず、事実上EVかPHVの二者になる。

 

 目標台数に満たない場合は、中国と同様、罰金を支払うか、目標台数を達成した他社から「CO2排出枠」を買い取ることで補わなければならない。

 

 ◇トヨタの逆転の目

 

 欧米各社が2大市場でEVシフトを急ぐのは、EVが将来の「メシの種」だからだ。「欧州勢はEVシフトに前向きだ」と指摘するのは、欧州自動車業界に詳しいジャーナリストの川端由美氏だ。米中の規制強化を受けてEVにかじを切ったのは確かだが、それなりの需要があると各社は見ているという。

 

 『週刊エコノミスト』編集部が各種調査機関へのヒアリングを基に推計したところ、自動車大手のEVシフトにより、16年に約42万台だったEVの世界販売は、2030年までに約637万台にまで拡大する可能性がある。大手シンクタンクのデロイトトーマツコンサルティングによると、EVとPHVを含むZEVの販売台数は50年には全体の85%を超えると予測する。EVがクルマの主流になる時代がやってくる。

 急速に進むEVシフトに取り残された巨人が日本のトヨタ自動車だ。EVの実用車が1台もなく、欧米勢や日産に大きく後れを取っている。エレクトロニクス(電子工学)に強い部品メーカーのデンソー、マツダの3社で共同設立したEV新会社「EV C・A・スピリット」で巻き返しを図るが、取り組みは緒に就いたばかりだ。

 トヨタが遅れた背景には大成功したHVへの固執があるとの見方が強い。優れた燃費性能を発揮するプリウスは、今年2月に世界累計販売台数が1000万台を突破した。「まだまだHVで戦いたいのがトヨタ技術陣の本音だ」(自動車業界誌記者)。マツダ、デンソーとの新会社も「一向にEVへの熱が上がらない開発陣に対し、豊田章男社長がしびれを切らして力技で話を進めたと聞く」(業界関係者)。

 

「トヨタがHVで培った技術力があれば、まだ十分追いつける」(業界アナリスト)との見方もある。EVの性能を決める重要技術の一つにバッテリーマネジメント(電池制御技術)がある。バッテリーの出力を細かくコントロールすることで走行性や燃費性を上げる。「欧州メーカーがHVよりもディーゼル車に力を入れたのは、トヨタの高度な技術をまねするのは不可能との判断があった」(同)。トヨタの電池制御技術はEVにも応用できる。

 

 もう一つ、EVの航続距離を飛躍的に伸ばすと期待される「全固体リチウム電池」の開発を東京工業大学と進める。トヨタは20年代前半の市場投入を目指しているとの報道もあり、実現すれば強力な武器になる。

 

 世界は予想以上の速さでEVへと動いているが、全個体という新型電池投入までに、欧米勢との差を埋めることができれば、デンソーを加えたトヨタ連合に勝機が見えてくるかもしれない。

 

◇大手部品も虎視眈々

 

 最近、マティアス・ミュラーVWグループ会長をはじめ欧州メーカーのトップに取材した川端氏によれば、現在、世界で走っているクルマ7000万台が、25~30年に1億台まで拡大するとき、上乗せ分の3000万台はEVを含む電動車になるとVWグループは見ている。

 

「内燃機関車はほぼ横ばいでそのまま残る上に、現在ゼロに近い電動車が約3分の1を占める。その経済効果は非常に大きい」(川端氏)。

 

 そうした経済効果の恩恵を最も受けるのが、「メガサプライヤー」と呼ばれる大手自動車部品メーカーだ。部品大手は、完成車メーカーが開発・製造を「外出し」し、自らは手がけてこなかったクルマの電気・電子部品を供給してきた。EVシフトにより車載電気部品の市場には大きなビジネスチャンスが訪れている。25年に300万台のEV生産目標を打ち出したVWが、新たに買い付けるEV関連部品だけを考えても、膨大な金額になるだろう。

 

 車載部品市場では、ボッシュ、コンチネンタル、ZFの独3社とカナダのマグナ、日本のデンソーが世界5強だ。特に電動化技術で先進的な取り組みをしているのがコンチネンタルだ。同社はモーターやインバーターなどEVの基本部品のほかに、非接触充電を自動駐車技術と組み合わせたEVの自動充電システムなど、インフラ系も含めた製品開発を行う。すでに実用化レベルの製品も多く、「電動化だけを見ればトップ」(外資系アナリスト)。

 

 一方、ZFのように内燃機関車の駆動系には強いが、電動車関連部品が少ない企業も、急速に投資を加速させている。ZFはBMW車の駆動系のモーターを手がけており、EV関連でのシェア拡大を目指す。

 

 日米欧のほとんどの完成車メーカーと取引がある世界最大手ボッシュは、EV向けバッテリーに注力中だ。開発には日本のGSユアサや三菱商事も協力している。マグナもEVを専門とする事業部を新設、GMに部品を供給している。

 

 日本勢では、デンソーがEVに不可欠のモーターの制御技術や部材に強みを持つ。9月、トヨタ、マツダとの新会社EV C・A・スピリットに参画し開発を本格化させる。

 

 パナソニックがEV向けバッテリー世界首位に立つ。テスラへの電池供給を独占している。1月にはテスラと共同で米ネバダ州に巨大電池工場「ギガファクトリー」を開設した。バッテリーの出力を制御する半導体技術や自動運転向けのセンサーも手がけ、車載分野の事業規模は18年度に2兆円超えが確実視され、メガサプライヤーと肩を並べる。テスラ以外のメーカーの64車種にも供給が決まっている。

 EV戦国時代が始まっている。

(大堀達也・編集部)

(成相裕幸・編集部)

週刊エコノミスト2017年11月14日号

特別定価:670円

発売日:2017年11月6日



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