クリスタリナ・ゲオルギエヴァ
世界銀行最高経営責任者(CEO)
1953年ブルガリア生まれ。93年世界銀行入行。環境戦略及び政策・貸付担当局長、開発担当局長などを経て、2008年副総裁兼官房長。10年より欧州委員会において、国際協力・人道援助・危機対応担当欧州委員、人的資源担当副委員長を歴任。17年1月より現職。
途上国の女性起業家を支援
女性は「自分を信じる」力を
クリスタリナ・ゲオルギエヴァさんは、現在のキャリアを築くまでに何を感じてきたのか。世界銀行グループ(WBG)が新たに設立した「女性起業家資金イニシアティブ(We−Fi)」の目的も聞いた。
── We−Fi設立の背景を教えてください。
■ We−Fiは、途上国の女性起業家や中小企業を経営する女性に対し、事業拡大に必要な資金や市場、人脈などさまざまな形で支援を行う取り組みです。途上国では、中小企業を経営する女性の約7割が金融機関から必要な融資を受けられず、多くの女性が活躍の機会を失っています。その不足資金は、世界全体で年間3000億ドル(約34兆円)にものぼるとされています。
この問題に対応するため、米国や日本など14カ国の資金支援を得て、We−Fiを設立しました。目標は、途上国の女性起業家や中小企業経営者に全体で少なくとも10億ドル(約1134億円)を支援することです。
── 今後どんな展開を見込んでいますか。
■ 二つあります。一つは、途上国の女性起業家が直面する厳しい現状を世界が認識し注目することで、問題意識を持ってもらうこと。もう一つは、支援によって良い経営実績を収めた成功事例を発信し、途上国の女性も男性同様に高い能力があることを実証することで信用力を向上させ、将来的には自ら道を切り開いていける環境を作ることです。
── 日本でも、女性が十分にキャリアを形成できない現状があります。女性として現在の地位を築くうえで苦労したことはありましたか。
■ 私が世界銀行に入行した頃は、女性は数えるほどしかいませんでした。当時は、「女性の能力は男性に劣る」という偏見が強くあり、女性がキャリアを築くには男性よりも多く働かなければ、同等に認められない風潮がありました。現在のようにIT技術も発達していなかったため、在宅勤務のような自由な働き方もできず、家族の集まりに参加できないことは何度もありました。
◇幹部が考え方を発信
── どう仕事と家庭を両立しましたか。
■ 私の場合、夫が家事と育児に協力的だったことが大きな支えになりました。そのお陰で私も家族との時間を作ることができ、夫の理解と家族との大切な時間があったからこそ、仕事が忙しくても頑張れました。
また、キャリアを築くうえでは、直属の上司の影響が大きかったと感じています。当時の私の上司であった元世界銀行総裁のジェームズ・ウォルフェンソンは、国や企業が成長するには、女性の存在と労働力が重要であるという考え方で、女性の活用や地位向上に積極的でした。
私が女性幹部として学んだ教訓として、女性はチャンスが来ても自信がないため遠慮してしまう傾向があり、それが結果的に女性の地位向上を妨げているということがあります。まずは、自分を信じる力が重要となりますが、私の場合は、女性としての存在や能力を全面的に認めてくれる上司がいて、のびのびと働けたことが、その後のキャリア形成に大きく影響したと感じています。
── 女性がキャリアを築きながら家庭と両立するためには、何が必要ですか。
■ 企業のトップや幹部が女性の活躍を発信することと、女性の働く環境を整えることを組み合わせることが必要です。幹部が自ら考え方を発信することで、職場や社会全体の働く女性への理解は深まると思います。
職場環境については、託児所を多く設けたり、企業はフレックスタイム制を導入して、男女ともに自由な働き方を広めていくべきです。子どもを持つ女性には特に必要です。また、男性も育児休暇を率先して取得し、子育てや家事を夫婦で均等に分担できるようにすることも重要です。こうした正しい政策がきちんと整備されれば、ワークライフバランスを取ることは難しくないはずです。
(聞き手=荒木宏香・編集部)