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特集:直撃! マイナス金利 地銀・ゆうちょ・信金+生保 2016年3月22日号

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◇地銀収益に予想以上の打撃

◇定期預金お断りの銀行も出現

 

桐山友一/花谷 美枝

(編集部)

 

「3月末に満期を迎える定期預金は更新が難しいので、普通預金に切り替えてもらえないでしょうか」

 日銀がマイナス金利政策導入を発表後の2月。都内のある中小企業に三井住友銀行の担当者から電話がかかってきた。この企業が預けていた約3億円の定期預金金利は、1年物で0・025%。それが、普通預金となれば過去最低水準の0・001%に下がる。中小企業の役員は「こんな申し出を受けたのは初めて。まとまった資金はこれからどう運用すればいいのか……」と頭を抱える。三井住友銀行広報部は「そうした指示は出していない。定期預金の運用にも困っていない」とする。

 ただ、銀行業界にとってこれ以上の預金の受け入れは、預金金利を支払う以上、経営の負担となるのは間違いない。マイナス金利発表後、預金金利の引き下げで防衛に走る銀行が相次いだが、貸出金や有価証券の運用利回りの低下がより大きいからだ。しかし、預金金利を限界まで引き下げてもなお、預金残高は増加を続ける。日銀が発表した2月の貸し出し・預金動向速報によると、銀行預金の平均残高は638兆円と前年同期比3・1%増と伸び率を高める。景気の先行きや老後への備えなどとして、企業や個人が預金を積み上げているとみられる。

 しかし、預金金利をマイナスにすることは困難だ。市民生活にも大きな影響が及ぶ上、日銀の黒田東彦総裁は2月、衆院予算委員会で個人向け預金について「マイナスの金利がつく可能性はない」と否定し、預金金利マイナス化の選択肢はふさがれた。銀行収益の源泉となる利ざや縮小は今後も進行し、銀行の経営体力を徐々に奪っていくのは確実。リスクをとって貸し出す銀行の余力を奪い、むしろ貸し出し意欲をそぐ可能性もある。

 日銀のマイナス金利導入により、激変に見舞われる日本の金融市場。3月8日の債券市場では、長期金利の指標となる10年国債の金利がマイナス0・1%と過去最低を更新した。日銀の黒田総裁は同7日の講演で、マイナス金利の効果を「実質金利の低下が設備投資や住宅投資を活発にする。株高や円安方向の動きが生じ、企業収益を押し上げて雇用や賃金の改善をもたらす」と説明した。

 ただ、足元のマネーの動きは、日銀の政策意図を必ずしも反映していると言いがたい。日銀が9日に発表した2月のマネーストック統計によれば、現金の平均残高は前年同月比6・7%増と、2003年2月以来の伸び率の高さを記録した。日銀が1月29日にマイナス金利導入を決め、預金への影響を懸念した家計が銀行から現金を引き出す「タンス預金」が広がった可能性も指摘される。

 

◇日銀局長が説明

 

「金融機関の収益にある程度、悪影響が出ることは承知している。デフレから脱却するためにどうしても必要な政策だ」──。

 東京・千代田の地方銀行会館で2月17日、開かれた全国地方銀行協会の毎月の例会。居並ぶ地銀首脳を前に、いつもは出席しない内田真一日銀企画局長が理解を求めた。日銀は2月16日から、銀行が預ける日銀当座預金の一部にマイナス0・1%の金利を適用。貸し出しの営業基盤が国内に偏り、資金運用も国債など国内債券が中心の地銀にとっては、貸し出し残高が伸びたとしても、国内の金利低下がより収益を圧迫する。

 

◇147銀行・信金

◇影響度を試算

 

『週刊エコノミスト』は今回、日銀のマイナス金利による金利低下がどの程度、収益に影響を及ぼすのか、2015年9月中間決算(信用金庫は預金量上位20庫を対象に2015年3月期決算)をもとに147金融機関への影響度をシミュレーションした(21㌻の表。一覧表は26~29㌻)。銀行本業のもうけを表すコア業務純益への影響度では、営業地域が限られる「地方銀行など」の分類で全107行のうち、スルガ銀行(静岡)のみを除く106行がマイナスに。1割以上の影響度は82行と全体の77%、2割以上の影響度も19行と17%を占めた。

 スルガ銀行は住宅ローンなど個人向けに特化する地銀の中でも異色のビジネスモデルで、貸出金利回りの高さが奏功する結果となった。一方、地銀の中でも規模の大きい福岡銀行や西日本シティ銀行(いずれも福岡)と競合の激しい筑邦銀行や北九州銀行(同)は、コア業務純益の影響度がマイナス33%と最も大きくなった。コア業務純益へのマイナスの影響度は、国内貸出金や有価証券の運用利回りが低く、利益の源泉が「資金利益」(利ざやによる収益)に偏る金融機関ほど大きい傾向がある。メガバンク3行はその点、投資信託の販売手数料など「役務取引等利益」や外貨建て債券による運用など収益源が多様化しており、影響度は地銀に比べて相対的に小さい。

 信金やネット銀行では、経常利益に対する影響度を試算。信金も地銀と同様の経営構造で、上位20信金では平均マイナス13%となった。ネット銀行の経常利益に与える影響度は、ソニー銀行のマイナス13%を筆頭に、貸出金や有価証券の運用利回りの低い銀行ほどインパクトが大きい。ただ、ATM(現金自動受払機)の手数料収入が中心のセブン銀行などは、経常利益に対する資金利益の割合が低いため、試算の結果でも影響度はマイナスにはならなかった。

 

◇ライバル同士の電撃統合

 

 シミュレーションで大きな影響をこうむる地銀業界。地銀グループ国内2位のふくおかフィナンシャルグループ(FG、福岡)と十八銀行(長崎)が2月26日、17年4月に経営統合することで基本合意したと発表し、業界内をさわがせた。ふくおかFG傘下の親和銀行(長崎)と十八銀は長年、長崎県内でし烈な金利競争を演じてきたライバル行同士。それが一転、経営統合に伴って、親和銀と十八銀が18年4月をメドに合併することでも合意した。

 十八銀の森拓二郎頭取は「親和銀との競争に向けていたエネルギーを地域発展のために使いたい」と統合の狙いを説明する。ただ、気になるのは長崎県内の貸出金シェア。親和銀、十八銀を合わせれば7割近くになると見られ、全国でも異例な高さとなる。ふくおかFGと十八銀は公正取引委員会とも事前に調整を進めるが、公取委の審査が通るかどうかが大きな関門。別の銀行関係者は「あれだけ圧倒的なシェアになり、適切な競争環境が維持できるのか」と疑問を投げかける。

 

◇「口座手数料」の現実味

 

 集まる預金の経営に対するインパクトを和らげようと、銀行業界で今、水面下である検討が進んでいる。預金に対する「口座管理手数料」の導入だ。先例は欧州にある。欧州中央銀行(ECB)が14年6月、主要国の中銀で初めて、民間銀行が預ける余剰資金の一部にマイナス金利政策を導入。低金利が長引く欧州では、法人の決済口座や富裕層向けの口座で手数料を導入している銀行が珍しくない。

 大和総研ロンドンリサーチセンターの菅野泰夫シニアエコノミストによれば、政策金利がゼロとなったスイスの大手銀が11年から手数料を導入したのを皮切りに、欧州各地の銀行へと拡大した。一方、個人預金にマイナス金利を適用するのはドイツの中規模行スカットバンクなど数例のみ。スカットバンクも預金50万ユーロ(約6200万円)以上が対象で、「個人預金へのマイナス金利適用は預金流出を招くことなどを懸念し、導入には踏み切れない」(菅野氏)。

 日本でも遠くない将来、法人・大口向け口座に手数料が導入されると見る専門家は少なくない。しかし、手数料は事実上のマイナス金利にすぎず、預金流出によるタンス預金化を加速させるリスクがある。経営体力の弱い銀行ほど、預金流出は貸し出し余力のさらなる低下を招きかねない。安定した利ざやで収益を稼ぐ銀行のビジネスモデルはもはや限界に近づいている。根本からの転換を迫られているが、多くの銀行にとって容易ではない。


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